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社説・コラム

天風録 「瀬戸と沖縄の水底で」

 宮島さんのおかげをもらわんと、漁がようない―。海に生きる人にそう聞いた。きょう厳島の管絃祭。かつては方々から千隻もの船が集まった。信心ゆえか、瀬戸の海は今も恵みをもたらす▲だが水底はひどく荒れている。長年、建材用にと海砂をさらった傷は深い。人魚伝説も語り継がれる海で藻場が減り、イカナゴなどは姿を消した。先週ようやく、採取を認めない原則を国が決めた。再生には数千年かかるというが、里海を残さねば▲こちらは透き通った海というのに…。沖縄の辺野古沿岸に米軍普天間飛行場の移設が進む。底をさらうどころか埋め立ててしまっては、二度と取り戻せまい。恵みが絶えるのはもちろん、犠牲になる生き物も多かろう▲天然記念物ジュゴンが海草を食べた跡が見つかったという。防衛省の環境調査では見当たらないとされたが、自然保護団体が潜るとあちこちに。人魚のモデルだけあって静かな海を好む。絶滅の恐れが現実味を帯びる▲海だけでは足らずと、森も崩すのか。辺野古の内陸に兵舎など30棟余りを造る青写真が出てきた。地元も知らぬ「水面下」で巨大基地化が進む。海の神、山の神から痛いしっぺ返しを受けはしないか。

(2014年7月13日朝刊掲載)

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