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社説・コラム

社説 集団的自衛権と民意 「ごり押し」は逆効果だ

 安倍政権への厳しい打撃に違いない。滋賀県知事選がおととい投開票され、無所属新人で元民主党衆院議員の三日月大造氏が当選した。

 告示前は、自民、公明両党が推薦する元経済産業省官僚が優勢とみられていた。しかし状況が一変したようである。

 もともとの争点である原発政策に加え、東京都議らによるセクハラやじが逆風になったとの指摘もある。ただ何より大きいのは、1日の集団的自衛権行使容認をめぐる閣議決定ではなかろうか。その日を境に、三日月氏が一気に勢いづいたと伝えられる。

 丁寧な議論を求める国民の声を軽く受け流すかのような、政権の手法に批判は根強い。滋賀県で示された今回の民意は、この一端と考えるべきであろう。

 閣議決定後の共同通信社の世論調査によると、内閣支持率は47・8%と4・3ポイントも下落。集団的自衛権の行使容認への反対は54・4%と半数を超えた。安倍政権はこの変化を甘く見ていたのではなかろうか。

 選挙結果を受け、政府・与党もさすがに今の状況を深刻に受け止め始めたのだろう。自民党の石破茂幹事長は、集団的自衛権の問題に丁寧な説明で臨む姿勢を示した。

 だが、国民に対する重要な説明の場であるはずのきのうの衆院予算委員会で、安倍晋三首相の答弁は十分だっただろうか。

 国民の不安をかえってあおったのではないか。例えば、シーレーンでの機雷掃海活動についての発言である。

 紛争停戦前の機雷掃海は、国際法上の武力行使にあたり、与党間でも異論があった。その行使を地理的にどこまで認めるのか、政府・自民党と公明党の間で議論されながら閣議決定では結論を先送りした経緯がある。

 しかし安倍首相は、ペルシャ湾のホルムズ海峡という具体的な地名を挙げた上で「原油・ガスの価格や供給状況、日本経済に与える打撃を勘案しながら判断する」と述べた。

 原油価格の高騰など経済的な事情で武力行使に踏み込む可能性を示唆したといえる。国家の存立や国民の権利が根底から覆される場合に、という前提を拡大解釈していると批判を受けかねない。公明党の考えとの矛盾も明らかだろう。

 自公両党の間には、こうした意見の違いが依然横たわる。それが滋賀県知事選の敗北の一因になったとの見方もある。機雷掃海をめぐる解釈は、両党間のすきま風をさらに強める可能性があるのではないだろうか。

 きょうは参院予算委員会の審議がある。野党側はしっかり問題点を洗いだしてほしい。

 安全保障政策をめぐる民意は、11月の沖縄県知事選でも問われよう。安倍政権はそれも見越し、関連の法案提出を来春以降に先送りする方向という。

 一方で、米国とは防衛協力指針(ガイドライン)の協議を進める方針のようだ。これでは対外的には実質協議を進めつつ、国内には法案先送りで問題を沈静化させる思惑にも映る。いかがなものだろう。

 安倍政権は、地方の活性化を新たに政策の重要課題に掲げようとしている。大切なことだが、国民的な関心の強い集団的自衛権の問題について根本的な議論を忘れてはならない。

(2014年7月15日朝刊掲載)

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