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社説・コラム

社説 川内原発「合格」 まだ第1段階にすぎぬ

 原子力規制委員会が九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に向けた審査書案を了承した。なお手続きは残るものの、川内が新規制基準に基づく「合格」第1号となるのは確実な見通しだ。

 しかし審査をパスしたからといって、事故が絶対に起きない「お墨付き」とはならない。万一の事態に地元住民がスムーズに避難できるかどうかも、現段階では不安が拭えない。

 ここで政府や九電が「今秋の再稼働」ありきで事を運ぶとすれば、あまりに強引だ。まずは今回の判断に至った根拠を分かりやすく国民に説明することから始めてもらいたい。

 そもそも今回の規制委の判断には首をかしげる点がある。

 まず国内の原発のうち最も高いとされる火山リスクだ。周辺火山が大噴火して火砕流などの影響を受ける可能性を九電は「十分に小さい」とし、規制委もこれを追認した。

 ところが、火山の専門家からの異論を十分に検証した節はない。これこそ東日本大震災を機に葬り去られたはずの「安全神話」の復活ではないか。

 事故に備えた設備も万全とはいえまい。例えば緊急時の対策所となる免震重要棟の完成は2015年度の見通し。それまでは高台の代替施設でしのぐと九電は説明するが、180平方メートルと狭い。緊急時に必要な作業員を収容できるか、心もとない。

 また川内は加圧水型の原子炉で、福島第1などの沸騰水型とは構造が違い、格納容器が大きい。このため事故時に放射性物質の飛散を抑えるフィルター付きベントの設置は、加圧水型については5年間の猶予がある。川内も16年度の完成を見込む。

 だが、肝心の施設が整うまで天災が待ってくれるわけではない。第1号の合格証書ならばなおさら、規制委はもっと時間をかけて審議し、より慎重に判断すべきだったのではないか。

 住民の避難にも不安が残る。鹿児島県の計画は、原発5キロ圏内からの避難を優先するため、5~30キロ圏の住民にはまず屋内にとどまるよう促すという。パニック時に果たして、その通りにできるだろうか。

 もとより住民の避難計画は地元自治体に作成が求められ、規制委の審査対象ではない。普段の訓練などを通じて住民が理解を深めるのは、川内に限らず全国どこも、これからの段階だ。

 そうした地元が今後、再稼働を認めるかどうかの決断を迫られる。いったん事故が起きると影響が広範囲に及ぶことを考えれば、立地地元だけの判断で済む話ではなかろう。鹿児島県は県内全自治体の意見を集約してもおかしくないはずだ。

 一方で国の関与があいまいになっているのが解せない。4月に閣議決定されたエネルギー基本計画は再稼働について「国も前面に立ち、関係者の理解と協力を得るよう取り組む」とうたうが、これでは国が最終責任を取るとは読めない。もし地元や電力会社だけに責任を押しつける思惑なら到底認められない。

 エネルギー政策をめぐっては依然、国民の意見は分かれている。そうした状況では、いつ再稼働しようとも「拙速」との批判は免れまい。少なくともベントが完成するまでは動かさないといった覚悟で、徹底した国民的議論を積み重ねたい。

(2014年7月17日朝刊掲載)

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