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社説・コラム

社説 特定秘密の運用基準 「最小限」信用に足るか

 特定秘密保護法の年内施行に向け、国民の不安を払拭(ふっしょく)しようとしたのだろう。秘密をどう指定し、解除するかという運用基準の素案を、政府が外部の有識者でつくる情報保全諮問会議に示した。

 基本的な考え方として「必要最小限の情報を必要最低限の期間に限って秘密指定する」と明記した。ただ「最小限」か否かは、秘密を指定する各府省庁の判断に委ねられる。これで恣意(しい)的な運用を防げるだろうか。

 運用基準の中身を見ると、特定秘密にできる要件として、新たに55項目を並べている。政府にとって都合の悪いことを何でも秘密に指定しかねないとの指摘を受け、できるだけ具体的に列挙しようと試みたのだろう。

 しかし依然として抽象的な表現が多く、秘密の範囲が曖昧との批判は免れまい。もともと秘密保護法は「防衛」「外交」「スパイ防止」「テロ防止」という4分野の計23項目で特定秘密を指定できるとしている。それらの項目を運用基準はさらに細分化したにすぎない。

 例えば、外交分野は法律上の項目に「外国政府や国際機関との交渉のうち安全保障に関する重要なもの」がある。この内容を細分化した運用基準では、国民の生命や身体の保護、領土の保全、海洋・上空における権益の確保などを挙げている。

 こうした文言を聞くと、安倍政権が今月、憲法解釈の変更で行使を容認した集団的自衛権をめぐる議論を思い起こさずにはいられない。将来、米国などから自衛隊を派遣するよう協力要請があった場合に、それに関わる情報が特定秘密に指定されれば、国会などで十分議論できない恐れがある。重要な情報が知らされないと、誤った判断にもつながりかねない。

 むろん現在でも防衛や外交の分野では、直ちに公にできない情報があるのは分かる。だからといって、むやみに秘密の範囲を広げ、国民の「知る権利」をないがしろにすることがあってはならない。

 運用基準への懸念はこれだけではない。意図的な情報隠しがあった場合に告発の受け皿となる内部通報窓口を設けることが盛り込まれたが、その仕組みには首をかしげる。秘密を指定する権限を持つ19の府省庁が、それぞれ設置するという。

 まず職員には、所属している官庁の窓口に連絡するよう求めている。しかし配置転換や退職に追い込まれる恐れを完全になくさない限り、職員が通報するのは容易ではあるまい。

 こうした批判を自覚してのことだろう。政府は別の通報窓口として、内閣府に「独立公文書管理監」を置くとしている。管理監は調査結果に応じて府省庁に是正を要求できるという。ただ政府内の機関という点では変わりがなく、どれだけ実効性があるのかは見通せない。

 そもそも運用基準の素案づくりの過程が不透明である。政府関係者と情報保全諮問会議の委員が公開の場ではなく、水面下で意見を交わしただけだ。

 だからこそ、今後実施される素案についての意見募集は重要な機会となろう。安倍政権は秋にも運用基準を閣議決定するという。集団的自衛権をめぐる議論と同様に、慎重な意見を無視して拙速に事を進めることは許されない。

(2014年7月18日朝刊掲載)

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