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社説・コラム

『この人』 第9回ヒロシマ賞を受けたコロンビア人アーティスト ドリス・サルセドさん 

暴力の痛み 芸術で表現

 母国である南米コロンビアでは60年以上、政情不安が続き、拉致や暴力的な犯罪が横行している。「残念ながら、世界で最も暴力が多発している国の一つではないか」。内戦や政治的暴力について調査をしながら、犠牲者や家族に寄り添い、その痛みをアートで表現する活動を続けてきた。

 芸術家の道は「選び取ったのではない。必然だった」という。「植民地支配に戦争、暴力で母国は廃虚だらけ。目をつぶって考えずに済ませたら楽でしょうが、いつからかこの数知れぬ苦しみを目に見える形にするのが自分の役割だと思うようになった」と振り返る。

 母国の大学を卒業後、米国ニューヨーク大大学院で彫刻を学んだ。古里のコロンビア国立大教授として後進を育てながら、1990年代からは、日常的に使われていた家具や衣類を用いて、暴力による犠牲者を悼み、再生への願いを込めた大規模なインスタレーション(空間構成)を次々に発表。国際的な美術展でも評価を得てきた。

 日本初となる19日からの広島市現代美術館(南区)での受賞記念展には、二つのインスタレーションを出展。その一つ「ア・フロール・デ・ピエル(皮膚の表面)」は、拷問の犠牲になった女性を悼んで制作した。大量の赤いバラの花びらを2年かけて一枚一枚縫い合わせた巨大な布のような物体だ。死者への献花でもあるが、花弁は傷ついたむき出しの皮膚にも見え、暴力の悲惨さを想起させる。

 初めて訪れた被爆地。「心を動かされた。私は無力な一人。誰かの命を救ったり失った命を元通りにしたりはできないけれど、芸術で記憶にとどめ、犠牲者の尊厳を回復したい」。首都ボゴタ在住。(森田裕美)

(2014年7月20日朝刊掲載)

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