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戦時下掃海 どう対応 集団的自衛権 海自呉 海外派遣の可能性

 集団的自衛権行使の具体例として、安倍晋三首相が挙げるペルシャ湾・ホルムズ海峡での機雷除去。1991年には海上自衛隊呉基地など所属の掃海部隊が湾岸戦争後のペルシャ湾で実任務に当たっており、派遣が現実になれば再び呉基地から掃海艇が出ていく可能性が高い。ただ戦時下での作業は未知の領域。元隊員たちはさまざまな課題を指摘している。(小島正和)

応戦能力

ほぼ丸腰 護衛必要

 「掃海は海中の仕事。戦争中となれば敵機やミサイルなど上や横にも神経を使わなければいけない」と呉市の元自衛官新谷正明さん(63)。91年、掃海母艦はやせの水中処分員の支援員としてペルシャ湾へ行った。

 機雷の敷設はもとより、除去も武力行使と見なされる。従来の憲法解釈では、日本周辺の機雷を個別的自衛権に基づき除去するしかなかった。ペルシャ湾に向かった91年は自衛隊法99条「機雷等の除去」の範囲を公海に広げた。ただ停戦後の「安全な場所」への派遣で、戦闘地域ではないという条件があった。

 掃海母艦1隻▽掃海艇4隻▽補給艦1隻―の計6隻と編成は最小限。「丸腰」と他国軍は驚いたという。

 掃海母艦は大砲、掃海艇は機関砲を備えるが、応戦能力が高いとはいえない。機雷は金属を感知、作動するため掃海艇は木造やプラスチックだ。元自衛艦隊司令官で呉水交会会長の勝山拓さん(69)は「戦時下派遣となれば護衛艦は必要となる」とみる。

 ただ護衛艦の活動は戦闘中の当事国を刺激する可能性もある。

即応性

時速25キロ 移動課題

 ホルムズ海峡は、日本から1万キロ以上離れている。

 掃海艇の航行能力は時速約25キロ。1991年のペルシャ湾派遣では到着まで約1カ月かかった。掃海母艦などを含めて航行する様子は「カルガモ親子の行進」と評された。もともと長距離航行を想定しておらず、中東で活動するとなると即応性は発揮できない。

 他の船に掃海艇を積んで運ぶという方法も考えられるが、掃海艇搭載を想定した海自の大型艦船はない。呉市の元海自隊技術幹部の松本順時さん(67)は「民間の運搬船をチャーターする手も考えられるが、世論を考慮する必要がある」と慎重な見方だ。

 ホルムズ海峡に到着してからも、どんな機雷がどこに敷設されているのか情報収集が必要。速やかに作業着手できるとは限らない。

不測の事態

戦争知らぬ世代を心配

 海自隊は戦後の機雷を処分する海上保安庁海上警備隊を母体に発足し、ノウハウを蓄積してきた。掃海技術は世界的に評価が高く、実機雷を使って訓練を実施するのは世界で海自隊だけといわれる。

 とはいえ戦時下での作業となると、想定外の事態が起きる危険は付きまとう。

 「近くの掃海艇が水しぶきを上げて沈んでいった。みな動揺した」。旧海軍出身で元自衛官の広一志さん(90)=呉市=は朝鮮戦争時に海上保安庁の掃海部隊の一員として朝鮮半島の元山沖に赴いた。味方の艇が触雷、爆発して沈んでいった光景を鮮明に覚えている。

 「自衛官は行けと言われたら行く。とはいえ、戦争を知らない今の若い世代は大変だろう」と思いやる。

シーレーン(海上交通路)の機雷除去
 シーレーン封鎖により中東から原油が運べないとなると、日本経済、国民生活は大きく脅かされるとし、「武力行使3要件」を満たせば、自衛隊による戦時下の掃海は可能との考え方。安倍晋三首相は14日の衆院予算委で強調した。途中で国連決議を受けた集団安全保障に移行しても継続参加できるとの見解。

掃海作業
 機雷は海底や海面近くに敷設され、船が接触、接近すると爆発する。探知機で探し当て、ダイバーや無人の処分具で爆発させる。1991年、海上自衛隊の掃海部隊は湾岸戦争後のペルシャ湾で34個を処分している。

(2014年7月22日朝刊掲載)

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