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「被爆樹」子孫で親鸞像 支坊整備で伐採 孫娘が涙 広島市西区の教専寺前住職が再利用 

 広島市西区草津本町の浄土真宗本願寺派教専寺が、同区田方にある支坊整備のため伐採したクスノキで宗祖親鸞の座像を作った。クスノキは被爆樹の子孫。前住職の故選一法(こせん・いっぽう)さん(75)が、切られた木を見て残念がる孫の涙に心を打たれ、京仏師に頼んだ。「平和への思いを強めるよすがになれば」と本堂に安置する。(桜井邦彦)

 「のんちゃんが泣きだしたんよ」。故選さんは2011年11月、現在小5の孫みのりさん(10)の母から電話を受けた。支坊の庭や塀を整えるため木々を切り、クスノキを含めて焼却する寸前だった。

 クスノキは、故選さんが1977年、知人から苗木を譲り受け、本坊の境内に植えた。親の木は爆心地近くに立っていたという。82年ごろ、支坊の境内に移植。伐採時には高さ約4メートル、幹の直径約30センチに育っていた。

 支坊で暮らすみのりさんにとって、境内は遊び場。「ようやく大きくなったのに、何で切っちゃったの」。こぼれた涙の理由は木々への愛情だった。

 故選さんは、整備に気を取られていたと言い、「孫娘の涙が効いた。お恥ずかしい限り。命というものを教わった」と振り返る。クスノキの再利用を思い立ち、京都市内の美術館で見た専修寺(三重県)所蔵の「親鸞聖人坐像(ざぞう)」を模してみようと考えた。

 制作したのは、中西祥雲さん(64)=京都市下京区。2年余りかけて6月末に完成した。手彫りの寄せ木造りで高さ30・5センチ。

 本堂に据えられた座像を前に、みのりさんは「生まれ変わってよかった」とにっこり。原爆で六つ上の兄を亡くしている故選さんは「核と人間は共存できない。世の中、安穏なれと願った親鸞聖人の言葉を胸に刻み直し、平和の大切さを伝えていきたい」と話している。

(2014年7月23日朝刊掲載)

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