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社説・コラム

天風録 「絶対悪ドラッグ」

 2人が向き合い、順に相手の手の甲をつまむ。両手がふさがると一番下の手を上にして、さらにつまむ。いくら続けようが、らちは明かない。いたちごっこの語源は、江戸時代に流行した遊びだという▲「脱法」のドラッグやハーブを乱用し、車を暴走させ人々を殺傷する、ふらちなやからが相次ぐ。当局が規制を広げるたび、擦り抜ける成分に変えて業者は売りさばく。つねられても、手は痛くもかゆくもないらしい▲業を煮やした当局がついに、お触れを出した。今後は「危険ドラッグ」に呼び方を改めようと。本紙も早速、きのうから使い始めた。くらし面で専門家に、文字通りの危険性を解説してもらっている▲いわく、幻覚や妄想を起こす、どう作用するか事前には分からない人体実験のようなもの、やがて覚せい剤や麻薬に手を出す予備軍に…。人間破壊というほかない。危険という言葉ですら、生ぬるいものに思えてくる▲被爆地には、こちらの「脱法」状態もいら立たしい。核兵器には開発や保有、威嚇、使用を丸ごと禁止する条約がない。それをいいことに、核依存症を呈する国が次々と増えた。原水爆も危険ドラッグも、「絶対悪」のはずなのだが。

(2014年7月24日朝刊掲載)

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