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社説・コラム

中国経済クラブ 講演から 政府の憲法解釈と集団的自衛権 元内閣法制局長官・阪田雅裕氏 

政治の王道を外れ立憲主義に反する

 中国経済クラブ(山本治朗理事長)は24日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開き、元内閣法制局長官で弁護士の阪田雅裕氏が「政府の憲法解釈と集団的自衛権」と題して話した。安倍政権が集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の見直しを閣議決定したことについて「政治の王道を外れ、立憲主義に反する」と批判した。要旨は次の通り。(松本恭治)

 自衛隊ができてから60年間、憲法9条に対する政府解釈は一点の揺らぎもなかった。9条1項でうたう戦争放棄は国際法上も珍しくはないが、特異なのは同2項。戦力を持たない、交戦権を否認するとある。かつて憲法学者の間で自衛隊は認められないという説が圧倒的だったが、政府は自衛隊は9条の「戦力」に当たらないとしてきた。

 なぜか。例えば憲法13条は国民の生命、自由、幸福追求権は最大限尊重しなさいとしている。そのための環境を国として整えるのが憲法の命令であり、有事に備えて必要最小限の組織を持つことは問題ない、という考え方だ。

 一方で、集団的自衛権は自国と密接な関係にある国への武力攻撃に対し、自国が直接攻撃を受けていなくても実力をもって阻止する権利だ。行使の典型例は、1991年の湾岸戦争。イラクの侵攻を受けたクウェートが個別的自衛権を行使し、米国が集団的自衛権を行使する形で始まった。

 安倍内閣は今回の閣議決定で、自国を守るためにしか集団的自衛権を行使しないとしている。自衛権の発動要件は「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」など。この要件を踏まえると、ペルシャ湾・ホルムズ海峡への機雷敷設は対象になるわけがない。米国がインド洋で攻撃されたとして、なぜ日本の存立が脅かされるのか。

 日本が攻撃された場合に限って個別的自衛権を行使するという、今までの解釈は相当程度、明確な基準だった。これからは世界で何か起こるたびに、自衛権の発動要件に当たるのかどうか議論が繰り返されるだろう。わが国にとって非常に不幸なことだ。

 米国が集団的自衛権を行使したケースとして最も有名なベトナム戦争では、オーストラリアと韓国も戦場に兵を派遣した。韓国は32万人を送り、四千数百人の犠牲者を出した。日本も憲法9条がなければ、ベトナム戦争に行っていただろう。同じように犠牲者が出たかもしれない。

 集団的自衛権を行使したいのであれば、しっかりと国民にも覚悟を求めなければならない。憲法改正の手続きを踏み、国民投票にかけるべき問題だ。憲法改正について、政治も国民も理解を深める必要がある。

さかた・まさひろ
 東京大法学部卒。66年、大蔵省(現財務省)に入り内閣法制局第1部長、内閣法制次長を経て04~06年に内閣法制局長官。退任後の06年に弁護士登録。和歌山市出身。70歳。

(2014年7月25日朝刊掲載)

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