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社説・コラム

2014平和のかたち~ヒロシマから シンガー・ソングライター 二階堂和美さん 

争いでは何も解決できない

 私たちは69年前を直接体験していないし、被爆といっても実感として湧かない。ヒロシマの曲を作るとなると、どこか実感を持てる要素が欲しくて、探した。それがセミだった。

 毎年8月6日午前8時15分に実家の寺で聞くサイレン、住職の父が突く鐘の音、そしてセミの鳴き声。原爆と戦争の悲しみを思う時間に重なるから。69年前のあの朝もセミの声は鳴り響き、みんな聞いていただろう。鳴き声は生命力とも感じ取れる。私は原爆を体験した人とつながれる。

 そんな思いで作った「蝉(せみ)にたくして」という曲は、2番の歌詞に「八月に終わり 八月に誓う」というフレーズがある。悼むだけでなく、平和を意識しているか、という自分への問い掛け。

 原爆や戦争の恐ろしさを肌で感じた世代が少なくなり、今、日本は危うい方向に向かっていると思う。とっても、どきどきしている。核兵器を持つべきではないし、原発も要らない。集団的自衛権を使うのにも反対だ。

 幼い頃から、争いは何の解決にもならないと聞かされて育った。戦争なんてもってのほか。核や武力で脅す、懲らしめるという考え方そのものがよくない。憲法9条の不戦の誓いは「宝」だと思う。断固として戦わない、加勢もしない、という立場を貫かないと。

 父方の祖父は朝鮮半島で戦病死し、昨年4月に亡くなった祖母から子ども3人を連れて引き揚げた苦労話を何度も聞かされた。20年ほど前に亡くなった母方の祖父は外地で戦い、残した手記の後書きに戦争を「絶対悪」と顧みていた。

 そんな生の声をかろうじて聞けた私たちが記憶をつないでいかないといけないと思う。活動家ではないし、非力。だけど歌手として、僧侶として話す機会には、思いをはっきり伝える。素直に聞いてもらえる言葉を選んで。自分の中から言葉をひねり出すのはとても大事。歌と一緒だと思う。(聞き手は岡田浩平)

にかいどう・かずみ
 大竹市出身。山口大、同大学院を経て、音楽家を志して上京。実家の寺を継ぐため2004年に帰郷した。僧侶を務めながら音楽活動を続け、スタジオジブリのアニメ「かぐや姫の物語」の主題歌「いのちの記憶」の作詞作曲、歌を担当。8月6日には広島市中区である日本原水協などの原水爆禁止世界大会で歌う。40歳。

                 ◇

 被爆、敗戦から69年が過ぎようとしている。きな臭さを増す海外情勢、憲法の解釈変更…。その中で、それぞれが描く「平和のかたち」を見る。

(2014年7月26日朝刊掲載)

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