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社説・コラム

青春文学館 僕たちは世界を変えることができない。 葉田甲太著(小学館文庫) 

松尾敢太郎(修道高1年)

心動かされ現地を訪問

 主人公の医大生が友人とともに、ボランティアでカンボジアに小学校を建てるノンフィクション。平凡な日々に嫌気がさした著者は、クラブでイベントを開いて小学校の建設資金を集める。そして現地を訪れ、衝撃を受ける。1970年代のポル・ポト派による内戦の影響で地雷と隣り合わせの生活や、ごみ山で暮らすような貧困とエイズがまん延する実態を目の当たりにしたのだ。その体験を通して人間としての幸せとは何か、本当の支援とは何かを真剣に考える。

 日本に生まれ育った僕たちは、物質的な豊かさが幸福だと考えがちだ。しかし、著者は恵まれているとはいえないカンボジアの人々の輝く笑顔から逆にパワーをもらったそうだ。それはきっと、日々を必死に生き抜いている人々が思い描く希望の力や生命力であり、日本人の僕たちに欠けている力なのだと思う。

 そして、「その国の人たちが自分の国を良くしていくために、お手伝いをさせてもらうのがボランティアだ」と著者は結論づける。莫大(ばくだい)なお金を寄付するのもいいけど、現地の人々を本当に助け、励ましたいのなら、一緒に汗を流して信頼関係を結び、その国の現状を理解しようとしなければ実現できないのだと感じた。

 この作品を映画化した深作健太監督に話を聞く機会があった。深作監督は「どこにでもいる普通の大学生が悩み自問する姿に10代の君たちが共感し、勇気を得てくれたら」と語ってくれた。僕はこの本と映画に触れ、カンボジアの空気を吸いたくなってこの夏、現地を訪れた。僕の中の何かが確実に変わったと思う。

(2014年7月27日朝刊掲載)

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