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CGと肉筆画でヒロシマの情念 被爆前の街 再現映画制作大詰め 映像作家・田辺さん 

 被爆者で、被爆前の広島の街並みをコンピューターグラフィックス(CG)で再現している広島市西区の映像作家田辺雅章さん(76)の新作映画の制作が大詰めを迎えた。爆心地から半径1キロ圏のCGに、一連の「復元」シリーズで初めて、被爆後の惨状を伝える自らのスケッチ画を織り込む。集大成として「人間の情念を伝えたい」と田辺さん。被爆70年の来年の公開を目指す。(加納亜弥)

 タイトルは「知られざるヒロシマの真実と原爆の実態」。魚介や果物の問屋でにぎわった天満川沿いの「広瀬市場」、水主町(現在は加古町)の広島県庁、小網町周辺にあった遊郭「花柳街」…。完全に消えた街並みを3次元のCGで精緻に再現する。基町にあった広島陸軍病院は、関係者の証言を基に、病棟を高床式にした。既にCGの約7割を完成させた。

 生家が県産業奨励館(現在の原爆ドーム)東隣にあった田辺さんは、1997年に爆心地付近の復元CGを作り始めた。これまでに今の平和記念公園一帯の中島地区や旧細工町、旧猿楽町など5作品を発表し、高い評価を得てきた。それでも「感情はCGで伝えられない」という。

 「心の奥に刻まれ、見る人が自分に置き換えて想像してもらえるように」と、山口県高水村(現周南市)の疎開先から8月8日に家族を捜しに入市して見た光景や、被爆者への取材を基に自らスケッチ画を描いた。母親の遺体を船に乗せる兵士に「お母ちゃんと行きたい」と懇願する男児、息絶えた赤子を抱いて子守歌を歌う母親の姿から、一人一人に起きた悲劇を痛烈に訴え掛ける。

 被爆者30人の証言映像も収める本編(60分)に先立ち、短縮版(40分)を作る。来年4月に米ニューヨークの国連本部である核拡散防止条約(NPT)再検討会議での公式上映を目指す。「あの時代の人々の暮らしや感情を正確に伝えるのに腐心した。今まで埋もれていた被爆前の広島の姿を強調したい」

(2014年7月27日朝刊掲載)

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