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原爆ドーム どう耐震? 破壊文化財の前例なし 広島市、工法選び難航 「強度」と「尊厳性」 両立悩む

 広島市が計画している世界遺産・原爆ドーム(中区)の耐震工事で、工法の絞り込みが難航している。免震構造や壁の補強案が浮上しているが、破壊された文化財の耐震化は前例がなく、大規模地震に耐える「強度」と「尊厳性」を両立できる答えがなかなか見つからないためだ。今秋にも設計を始めたい市は、決断を迫られている。(川手寿志)

 原爆ドームはれんが造り3階建て。1915年に広島県物産陳列館として完成した。市は2013年度、壁をくりぬいて耐震性を調べ、一部で破損する恐れがあることが判明。ことし1月、震度6弱でも耐えられるよう、初めて耐震工事を実施する方針を表明した。

 市は、有識者でつくる原爆ドーム保存技術指導委員会の耐震対策部会で工法を検討中。メンバーから耐震性の効果が高いとして挙がっているのは、地面を掘って揺れを吸収する装置を取り付ける方法だ。ただ、国指定の史跡であるドームの下部を大がかりに掘るのを困難視する意見が強い。壁などに炭素繊維を巻く補強策も議題に挙がるが、外観全体を覆うのは「尊厳性」の視点から現実的でなく、一部だけでは耐震効果が薄れる。

 有力視されるのは、建物内部に鋼材を当てて補強する工法。ただこれも、建物の強度のばらつきが大きく、どの程度の補強が適切なのか分からないという。委員会と部会のメンバーで福山大の鎌田輝男名誉教授(耐震工学)は「老朽化が激しい上に原爆被害で健全な状態ではない。普通の耐震化の考え方は採れず、非常に難しい」という。

 一方、委員会の保存記録調査部会長の広島大の三浦正幸教授(文化財学)は「ドーム内のがれきの中には遺骨も埋まっており、いわば被爆者のお墓。今のままで十分で、工事をする場合も最低限の補強でいい」と「尊厳性」を重視する。

 市は9月にも始める3年ぶりのドームの健全度調査に併せて設計作業に入り、15年8月6日以降に耐震化に着工したい構え。最終的には、文化庁とも工法を協議する。文化庁記念物課は「世界でも珍しい工事。遺構としての保存、外観への配慮、取り外しが可能な可逆性の3点のバランスを保てるかが重要だ」という。市公園整備課は「文化財の価値を損なわず、弱い部分を中心に対策を講じたい」としている。

(2014年7月28日朝刊掲載)

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