×

社説・コラム

社説 ウクライナ東部情勢 国際社会は対露圧力を

 ウクライナ東部でのマレーシア航空機の撃墜から10日が過ぎた。国連安全保障理事会は強く非難し、全ての関係国に調査への協力を求める決議を全会一致で採択した。当然である。

 親ロシア派武装勢力とウクライナ軍との紛争がなければ、事件は起こらなかっただろう。全く関係のない300人近くが犠牲になった。国民の命を奪われた各国の怒りが収まらないのはもっともだ。

 国際調査チームが原因究明を始めた。米国は親ロ派が地対空ミサイルで撃墜した可能性を主張し、ロシアはウクライナ軍の関与をにおわせる。ただ決め手には欠くようで、情報戦の様相を見せている。

 機体やミサイルの破片などの分析、飛行データを記録したブラックボックスの解明を急いでほしい。困難は十分予想されるが、うやむやのまま終わらせてはなるまい。

 墜落現場を支配する親ロ派は事件直後から人道にもとる行為を繰り返し、関係国の神経を逆なでしている。遺体の扱いはぞんざいで、遺品をあさる姿まであったという。

 さらにはブラックボックスをいったん持ち去る、コックピットの残骸を切断するなど、証拠隠滅ともとれる行為が続いている。国際チームや航空専門家の現場への出入りを厳しく制限しているようだ。調査を妨害しているに等しく、理解に苦しむ。

 プーチン大統領には、まずは親ロ派を抑え、現場での調査への協力を促すよう求めたい。

 後ろ盾となっているその責任は大きい。クリミア半島の編入に続き、東部の混乱に乗じて、欧州に傾くウクライナへの発言力を保つ戦略をこれまで進めてきたといえよう。武器の供与を指摘され、ミサイルの技術支援もしていたとの見方も広がる。

 そうでなくても、親ロ派は地元住民による反政府運動にとどまらず、民族主義者が率いる過激な武装集団に変わったといわれる。ロシアが仮にも軍事支援を続けるようなら、国際社会での批判が高まるのは必至だ。ウクライナ軍との停戦を呼び掛けるなら行動で示してはどうか。

 欧州は撃墜事件後、ロシアへの強硬論を強めている。犠牲者はオランダが最も多く、欧州連合(EU)加盟国の国民が7割を占めることを考えればうなずける。

 EUは早速、情報、治安機関の高官を対象に在欧の資産凍結を決めた。クリミア編入でも経済のつながりを優先して厳しい制裁には踏み込んでこなかったが、姿勢を変えたわけだ。

 ただ足並みがそろったとは言いがたい。次の制裁として武器輸出の禁止を準備するが、フランスは今秋、大型揚陸艦を予定通りロシアに売却すると主張する。金融制裁については、英国が難色を示す。ここは利害を超えるべきだろう。

 日本も消極的であってはなるまい。安倍晋三首相は北方領土問題を念頭にプーチン氏と良好な関係を築く。事件後には「対話を続ける」と配慮を見せた。しかし、事件の解明に後ろ向きと見られては、欧米との関係を損なう。

 今秋予定されるプーチン氏の来日を棚上げしてでも、圧力を強めるときだろう。むろん、紛争の終結にも力を尽くさねばならない。

(2014年7月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ