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社説・コラム

2014平和のかたち~ヒロシマから 広島沖縄県人会顧問・中村盛博さん

戦争の現実…想像が大切

 戦争とは何か。人の身に何が起こるのか。最近の政府の動きや政治家を見ていると、この根本的な問いに思いをはせていないと思えてならない。

 かつての政治家には第2次世界大戦の体験や記憶が残っていた。自民党の後藤田正晴さんのように戦争を体験した「重鎮」がいて、軽々しく憲法9条改正などと言わせない雰囲気があったが、今はそれがない。

 集団的自衛権の行使容認と、憲法9条の改正は「人を殺し、殺されやすくなる」ということ。

 占領下の沖縄で過ごした子どものころ、原野に立つ赤旗が記憶に残っている。不発弾が埋まり、絶対に近づいてはいけない場所だった。山中では鉄かぶとや軍靴、時には人骨に出くわした。戦後生まれの私にも、戦場の風景は刻み込まれている。

 だからこそ教師を務めた高校では、原爆の被害や日本のアジア侵略、沖縄戦についてしっかりと教えた。子どものころの体験が、戦争に対する想像力を育むと信じているからだ。

 しかし、それはやりにくくなっているのではないか。従軍慰安婦問題を扱うドキュメンタリー映画を題材にした広島大の授業に対し、学外から「内容が一方的」と抗議が相次いだ。授業のなかで徹底的に意見を戦わせればよかった。平和教育の萎縮につながらないか心配だ。

 いまのテレビや新聞の報道は戦地の遺体を見せない。内臓が飛び出したり、頭が吹き飛んだり…。広島に落とされた原爆では罪のない人たちが一瞬で焼かれ、放射線被害に今なお苦しんでいる人がいる。残酷の極みだが、過度に情報を遮断してはいけない。事実を知るから自分の身内にその姿を重ね、許されないと言えるようになる。

 所属する市民団体で広島の小中学生を沖縄に連れて行く事業を復活させるつもりだ。原爆と地上戦。両方の現場で起きた事実を知ってほしいから。リアルな体験と想像の積み重ねが、平和につながると信じている。(聞き手は久保田剛)

なかむら・もりひろ
 沖縄県中城村出身。1973年、広島大教育学部を卒業後、約30年間にわたり広島市安佐南区の大下学園祇園高で英語教諭を務めた。2012年から現職。市民団体「広島・沖縄をむすぶつどい」の世話人として、沖縄戦の犠牲者を追悼する集会を毎年開いている。64歳。

(2014年7月28日朝刊掲載)

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