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社説・コラム

社説 東電元会長ら起訴相当 検察は再捜査に本腰を

 未曽有の原発事故の刑事責任が法廷で争われる可能性が出てきた。

 東京電力福島第1原発事故をめぐり、業務上過失致死傷などの容疑で告訴・告発された東電の勝俣恒久元会長ら3人について、東京第5検察審査会は「起訴相当」とした。

 むろん過去の事例からみると、今後、起訴という事態になっても、組織トップの責任を問うことにハードルが高いのは事実だ。

 ただ、被災者にしてみれば、長くつらい避難生活を余儀なくされている。これほどの重大事故を起こした企業の旧経営陣が、これまで法的に何の責任も問われていないことには納得がいかないだろう。

 検察はこれまでの慎重姿勢に固執せず、捜査のやり直しを急ぐ必要がある。

 東京地検は昨年9月、「巨大津波を具体的に予測できたとは言えない」と判断し、勝俣元会長らを不起訴にした。

 原発事故は、地震や津波という天災が直接の原因であり「個人の責任の追及はなじまない」という判断があったようだ。事故は「想定外だった」とする東電側の主張に基本的に沿ったものであろう。

 しかし今回の検審は一転して、事故の予見可能性について認めた格好である。

 事故前の2008年、高さ15メートルを超す津波が発生する危険性が指摘されていたことを挙げ「具体的な予想が可能だった」と判断。算出された事故リスクの最高値に基づき対応を考えるべきだった、とした。電源車や必要機材を高台に移設したり、緊急時のマニュアル整備など手を打っておけば「被害を回避、軽減できた」とし、検察と異なる判断を下した。

 併せて、津波や地震のリスクについて「単なる数値とみるだけで、実際には発生しないだろうという曖昧模糊(もこ)とした雰囲気が存在していたのではないか」とした。東電側の安全意識そのものに疑問を投げ掛けたといえよう。

 東電側はこれまでも、津波対策をとらなかったのは「国の指示がなかった」とするなど、自己弁護ともとれる対応に終始し、国民から手厳しい批判を受けてきた。

 想定外だったのではなく、コストや効率を理由にしてリスクに真摯(しんし)に向き合わなかったのではないか―。そうした市民感覚が、今回の議決の背景にあることは間違いない。

 東京地検は再び関係者の聴取を検討するという。もう一度不起訴にするか、原則3カ月以内に処分を決めない場合、検審が再審査する。2度目の起訴相当が出た場合、強制起訴となる。

 司法に国民の目線を反映させるのが検審の目的でもある。検察は関係資料を一から洗い直す覚悟で捜査を進め、冷静に判断してもらいたい。

 同時に、東電側の姿勢も問われよう。

 原発事故はまだ収束せず、汚染水対策も進んでいないのに、新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働を申請している。

 これに批判的な世論が根強いのは、事故の原因や責任の所在が曖昧なまま、再稼働を目指す姿勢に不信感があるからにほかなるまい。東電は自覚する必要がある。

(2014年8月1日朝刊掲載)

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