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社説・コラム

『記者縦横』 戦争体験者の「心」 継承

■岩国総局・増田咲子

 山口県被団協に加盟する最大組織、岩国市原爆被害者の会が存廃問題で揺れた。

 会員の高齢化や世話役の病気を背景に、会の存続をアンケートで問うた。その結果、回答した会員192人のうち、100人が規模を縮小してでも継続を求め、92人が継続を希望しなかったのだ。

 理事会での協議の末、「存続を希望する100人の声を尊重すべきだ」と、解散は回避される方向となった。来年1月までに正式に結論を出す。

 存廃問題が浮上した要因の一つに、学校現場などで証言する「語り部」を確保する難しさがあった。被爆者が病気になり、学校側が求める人数を派遣できないこともあったという。

 「『継承』は活動の柱であり、課題でもある」と、藤本伸雄会長(73)は頭を悩ませる。これから先、被爆者が自らの言葉で語れなくなる日に備え、証言の映像化を検討している。

 広島市では、高齢化する被爆者の代わりに証言する「伝承者」の養成に取り組む。あの日の記憶がない人たちによる継承の形。その難しさに模索が続く。指導する被爆者の細川浩史さん(86)=広島市中区=は「私のコピーではなく、スピリット(心)をつないでほしい」と願う。

 原爆だけではない。岩国市では終戦前日の8月14日、岩国駅周辺の空襲で千人以上が亡くなったとされる。巡り来る69年目の夏。戦争体験者の声に耳を傾け、「心」を感じたい。

(2014年8月1日朝刊掲載)

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