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社説・コラム

2014平和のかたち~ヒロシマから 児童文学作家・那須正幹さん 

相手の立場考える力を

 3歳で被爆した。原爆の話を書こうと思ったのは防府市に移り住み、長男が生まれてから。あまりにも身近すぎて文学の対象にならないと考えていたが「子どものために書いておきたい」との気持ちが湧いた。

 戦争児童文学として、もう少し書きたいことが出てきた。通常、子どもは被害者だが、加害者になる悲劇もある。子どもも命のやりとりをせざるを得ないのが戦争だ。

 日本児童文学者協会が設立70周年を記念して発刊する児童書の原稿を、先日仕上げた。タイトルは「少年たちの戦場」。4話の短編連作で主人公は12~14歳。太平洋戦争の沖縄地上戦の学徒通信兵たちを描いた。

 本格的に書き始めたのは昨夏。この間、安倍晋三首相は憲法を骨抜きにした。特定秘密保護法で表現の自由や知る権利を規制し、武器輸出三原則を緩和。集団的自衛権を使える閣議決定もした。書いているうち、いつでも戦争ができる時代になってしまった。

 若い人からも核武装や憲法改正を望む声が出る。本人が戦争に行くことは考えず、誰かが行くと思っている。想像力が欠けている。

 なぜか。相手の立場になって物事を考えることが足りないのではないか。自分の主張と逆の立場で考えることをせず、視野が狭くなっている。憲法9条を守るのは「平和ぼけ」と批判されるが、相手をやっつければいいと考える人たちの方が、よほど平和ぼけ。

 安倍首相が言う「積極的平和主義」は、戦争にならないよう抑止力を高め、よその国の紛争に出掛けていって鎮圧するということ。でも抑止力だけに頼ると、兵器や軍備の拡充に際限がなくなる。偶発的に戦争が起きる可能性も高まる。

 為政者は世の中を急にではなく、少しずつ少しずつ変えていく。だから若い人には自分好みの情報をかき集めるのではなく、いろんな本を読んでほしい。考えの違う人と話をしてほしい。世の中を注意深く観察し、何か変だと思ったらすぐに声を上げないと。(聞き手は村田拓也)

なす・まさもと
 広島市西区出身。3歳の時、爆心地から約3キロ、現在の西区己斐本町の自宅で被爆した。1968年に児童文学の創作を始め、78年からの「ズッコケ三人組」シリーズは50巻で完結した。2011年には、広島の戦後を描いた「ヒロシマ」3部作を発表。12年に日本児童文学者協会賞を受賞した。防府市在住。72歳。

(2014年8月1日朝刊掲載)

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