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原爆症認定で提訴 広島地裁に3人

■記者 山崎雄一

 2008年4月に原爆症認定要件が緩和された後、認定申請を却下された広島市内の被爆者3人が5日、国に処分の取り消しと慰謝料など計900万円の損害賠償を求める訴訟を広島地裁に起こした。国の不当性を問う同様の一斉提訴は大阪地裁に次いで2例目となる。

 訴えたのは、爆心地から1.2~2.7キロで被爆し、甲状腺機能低下症や心筋梗塞(こうそく)などを患う67~81歳の男女3人。訴状によると、2人は今年2~3月に認定申請を却下され、1人は認定却下の異議申し立てを却下された。放射線の起因性が認められないとの理由だった。

 国は2008年、爆心地から3.5キロ以内で被爆した場合、がんや心筋梗塞、甲状腺機能低下症などについて積極的に認定する方針を示した。原告側は「認定却下は被爆者援護法に反する違法行為」と主張している。

 提訴後の記者会見で、原告の吉村蔦子さん(70)=南区=は「国の認定基準はうやむやだ。きちんと説明してほしい」と強調した。


<解説>名ばかりの「積極認定」


■記者 金崎由美

 国が原爆症の認定基準を緩和した以降も、申請の多くが却下されている実態への憤り…。広島の被爆者3人が5日、原爆症認定を求めて提訴した最大の理由だ。「国は約束を守ってほしい」。その訴えに怒りがにじむ。

 厚生労働省は、全国の原爆症認定集団訴訟で敗訴を重ねた結果、2008年と2009年に認定の審査基準を緩和した。「爆心地から3.5キロ以内で被爆」などの条件を満たせば、がんや白血病のほか、心筋梗塞、白内障、甲状腺機能低下症、肝機能障害などを「積極認定」する方針だ。

 原告はいずれも対象疾病に該当するが、申請は退けられた。なぜか。新しい審査基準には実は、がん、白血病を除く疾病の発症に「放射線起因性が認められる」との条件を明記しており、それを満たしていないと判断されたとみられる。

 ただ、却下理由の説明は一切ない。原告弁護団は、審査する厚労省の分科会が「放射線起因性」の一文を盾に多くの申請を却下していると主張。3人の原告も審査の不透明さに不満を募らせている。

 積極認定の「看板」は名ばかりだ―。被爆者の批判に、国は真摯(しんし)に向き合わなければならない。

(2010年10月6日朝刊掲載)

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