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官民挙げ 呼び掛け成果 国連加盟国8割 広島訪問 核軍縮停滞 憂いも

 国連加盟国の8割から政府代表が被爆地広島を訪れ、原爆被害の実態は着実に世界に広がっている。核兵器廃絶へ、広島市の官民が声をそろえて、訪問を呼び掛けてきた効果は大きい。ただ世界にはなお約1万6千余の核兵器が存在し、軍縮の停滞は続く。来年の被爆70年を前に、さらなる発信が求められる。(田中美千子)

 「国家の在り方は簡単に変わらない。残念な現実だ」。英語で被爆証言を続けてきた松島圭次郎さん(85)=佐伯区=は憂う。

 流ちょうな英語が使える被爆者は多くない。松島さんは20年以上、海外の要人や旅行者に証言を重ねてきた。「体験者として原爆の破壊力を伝える義務がある。どうしたら核兵器を葬れるか一緒に考えてくださいや、という思いで語ってきた」。昨年暮れ、血液の病気を発症し、治療の日々が続く。「困難でも廃絶を訴え続けるほかない。それがヒロシマの使命だから」。自らを奮い立たせる。

 海外の政府代表が大挙するのが原爆の日。市はことし、155カ国に平和記念式典の招待状を送り、少なくとも71カ国から出席の返事が届いた。キャロライン・ケネディ駐日米大使も式典に合わせ、着任後初めて広島を訪れる。

 「原爆の悲惨さを胸に刻み、核軍縮に向けた施策に生かしてほしい」。中区の市民団体「『広島からの発信』をすすめる会」(延本真栄子代表)はそんな願いを込め、被爆証言を収録した英語のCD(58分)をことし制作した。市を通じ、参列する政府代表へ渡す準備を進めている。

 内容は、被爆者8人の証言と原爆詩5編。「一人でも多くの政府の代表に原爆被害の実態を伝えたい。真実を伝え、核兵器廃絶への一歩としたい」と延本代表は言う。

 原爆資料館(中区)が保管する66冊の芳名録には、2千人以上の政府高官や著名人の言葉が刻まれている。

 「ヒロシマは原爆の恐るべき非人道性を思い出させてくれる」(1995年、アイルランドのメアリー・ロビンソン大統領)、「『決して、二度と』という言葉のみだ」(2001年、東ティモール暫定内閣のラモス・ホルタ外務担当閣僚、後に大統領)…。

 海外から訪れた要人たちは原爆の惨禍に心を震わせ、平和への思いを表現してきた。遠くない将来、核超大国の為政者がここに記帳することを、被爆地は望んでいる。

(2014年8月2日朝刊掲載)

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