×

社説・コラム

2014平和のかたち~ヒロシマから 「ねがい」発案者・横山基晴さん

「戦争反対」言うのは今

 〽もしもこの頭上に落とされたものが ミサイルではなく本やノートであったなら 無知や偏見から解き放たれて きみは戦うことをやめるだろう―。

 この歌い出しで始まる「ねがい」の歌詞は2001年、大州中の3年生に平和教育の授業で書いてもらった「平和宣言」や感想文が基だ。歌にしようと考えたのは、思いを形にすることで心に刻み込んでほしいと思ったから。広島合唱団が4番まで作詞作曲。教育関係者がインターネットで「作詞」を呼び掛けたところ、今では37言語、2千番を超えた。

 でも、世界中に広がったのは逆に、平和ではない状況が各地にあるからかも、と考えてしまう。

 生徒には「戦争は遠い世界の話ではないよ」と授業で伝えている。今もどこかで紛争は起きている。仮に「武力」がなくなったところで、「平和だ」とも言えない。人種差別や貧困といった戦争の根っこをなくさないと。日本にも根っこはあると思う。身近ないじめや体罰を許さない文化を広めなきゃいけない。

 今の社会情勢に、個人的には危機感を持っている。集団的自衛権の行使容認は国の根幹である憲法を飛び越えようとしていないか。戦争が始まってから「戦争反対」と叫んでも、かき消されてしまう。言うのは、今しかないでしょ。

 そのために「平和力」を培ってほしい。たくさんの意見を聴いて、雰囲気に流されず自分で判断する。分からないからといって黙らない。他者と交流する。国境を超えた草の根の交流が続いていれば、国同士の決定的な対立にはならない。

 それを教える平和教育は形骸化しているように思う。教員にもゆとりがないし、学習指導要領を守らないといけない。子どもの様子や社会情勢を踏まえて、授業を肉付けしていくしかない。今は2年生の道徳や総合的な学習の中で、歌や朗読劇といった表現活動をできるだけ盛り込んでいる。切り口次第で生徒は能動的になる。子どもががらっと変わる瞬間にこそ、心に何かが刻み込まれる。(聞き手は加納亜弥)

よこやま・もとはる
 呉市出身。1983年に愛媛大教育学部を卒業後、社会科教諭に。91年から勤務した大州中で、平和教育で生徒が作った文章を歌にすることを発案。広島合唱団の協力で「ねがい」が完成した。2010年から牛田中教諭。55歳。

(2014年8月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ