×

ニュース

米が臨界前核実験 9月15日 オバマ政権で初

■記者 金崎由美

 米ネバダ州にあるエネルギー省の核実験場で9月15日に臨界前核実験が実施されていたことが12日、分かった。米国の臨界前核実験は24回目で、2006年8月以来。オバマ政権では初めてとなる。包括的核実験禁止条約(CTBT)は爆発を伴わない核実験を禁止しないものの、強大な核戦力を長期間保持する方針の表れともみられ、オバマ大統領が掲げる「核兵器なき世界」に矛盾する、との批判が出ることは確実だ。

 エネルギー省傘下の国家核安全保障局(NNSA)の資料によると、「バッカス」と名付けた実験は、ニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所が、9月15日午後5時35分に実施した。高性能爆薬で衝撃波を与えたプルトニウムの動作を調べたという。

 地元反核団体「ネバダ・デザート・エクスペリエンス」のジム・ヘイバー氏は「これまでは実験の48時間前にNNSAが発表していたが、今回はなかった」と話す。2006年8月の臨界前核実験でも、エネルギー省が事前に実施を発表していた。

 同実験場の担当者は昨年11月、中国新聞の取材に対し「10年9月までに3回の実験を予定している」と明言していた。NNSAの最新の資料では、残り2回を「11米会計年度(2010年10月~11年9月)の第1四半期と第2四半期に予定」と明記している。

 ネバダ州にあるエネルギー省の核実験場はラスベガスの北西約100キロに位置する。今年8月、正式名称を「ネバダ国家安全保障施設」と改めた。

 米国は1992年に爆発を伴う核実験の一時停止を宣言した一方で、1997年から「核兵器の信頼性を維持するため」として臨界前核実験を続けている。

臨界前核実験
 核分裂の連鎖反応が続く「臨界」にならないよう少量の核物質を使い、核爆発は起きない実験。未臨界核実験とも呼ばれる。米国が1997年以来実施したうちの2回は英国との共同実験。ロシアも北極圏ノバヤゼムリャ島などで実施している。


米臨界前核実験 被爆者 怒りと戸惑い 広島 廃絶機運に水差す


■記者 金崎由美

 米オバマ政権では初となる4年ぶりの臨界前核実験が明らかになった12日、広島の被爆者たちの間には怒りと戸惑いが広がった。

 広島県被団協の坪井直理事長は「被爆者は、いかなる国によるいかなる核実験にも反対だ。5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議などを通して核兵器廃絶への明るい兆しも見えてきているのに…」と憤る。

 もうひとつの県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長も「オバマ政権の『核兵器のない世界』とのダブルスタンダードだ。被爆地も、国際世論も黙っていない」と批判。平和記念公園(広島市中区)での座り込みを計画する。

 オバマ政権が核兵器予算を大幅に増やしている現状との関連を指摘するのは、米国の核兵器問題に詳しいNPO法人「ピースデポ」(横浜市)の梅林宏道特別顧問。「核抑止力の保持を米国内の保守派にアピールする材料の一つだ。地下核実験を再開できる技術の保持にもつながる」と警戒を強める。

 広島市は、臨界前核実験のたびに市長名の抗議文を在日米大使館経由で送付している。平和推進課は「まだ情報が入っていない。米大使館を通して事実を確認し、対応を決めたい」と説明している。

(2010年10月13日朝刊掲載)

関連記事
米、核予算の大幅増額計画 (10年3月12日)
臨界前核実験中止 米駐日大使に要請 広島県知事が送付(09年11月24日)
臨界前核実験 米が計画 来年9月までに3回 ネバダ実験場 (09年11月20日)

年別アーカイブ