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社説・コラム

社説 安倍外交 「遠交近攻」をいつまで

 かつてない外遊のペースは並々ならぬ思いの表れだろう。

 安倍晋三首相は中南米5カ国歴訪の旅をきのう終え、帰国の途に就いた。第2次安倍政権の発足後、これまで訪問した国は計47カ国に上る。

 歴代首相では小泉純一郎氏の48カ国が最多。ただし5年5カ月かかった小泉氏の記録に対し、安倍首相は就任してわずか1年7カ月である。9月にも南西アジア訪問が予定されており、歴代トップに躍り出るのはほぼ確実のようだ。

 今回、中南米では「セールス外交」を前面に打ち出した。日本から商社や建設会社などの経営陣約70人を伴い、官民挙げて関係の強化を図った。中南米諸国は近年、4~6%の経済成長を遂げている。購買力のある中間層の広がりを当て込み、インフラ輸出や新たな市場開拓につなげる戦略に違いない。

 日本の首相として初めてコロンビアやトリニダード・トバゴも訪れた。活発な外交の背景には中国の動きがある。習近平国家主席は昨年春の就任後、2度にわたって中南米を訪問し、経済的な協力関係を強めている。そこに割って入る意味合いを込めたのだろう。

 安倍首相は今回の外遊を総括する演説で、「法の支配」に基づく国際社会の安定を呼び掛けた。海洋進出を図る中国をけん制する狙いであることは、言わずもがなである。

 国連安全保障理事会の改革を念頭に置いての戦略外交も、狙いは変わるまい。

 ブラジルのルセフ大統領と会談し、国連創設70年の来年に向けた改革の進展で一致した。今後、ドイツ、インドを含む4カ国(G4)で常任理事国入りの戦略を練る方針だという。

 来年は非常任理事国を選ぶ年でもある。国際社会で日本の存在感を高め、中国包囲網を築くのが首相の思惑だろう。

 地球儀を見渡し、幅広い国々で日本の外交や経済面での連携を深める姿勢は評価できる。人口減で先細る国内市場への波及効果も期待できよう。

 だが、肝心のとげが抜けていない。これだけ外遊を重ねながら、隣国の中国や韓国とは一対一の首脳会談が実現していない。これではバランスを欠いていると言わざるを得ない。

 思い浮かぶのは「遠交近攻」という言葉だ。「遠くの国と交わり、近くの国を封じ込める」という意味で、中国の戦国時代の戦略に由来する。

 相互依存のグローバル化が進む今、敵と味方に塗り分けるような外交が続けば、相手には「挑発」と映りかねない。願いもしない断絶に発展する恐れさえある。こうした姿勢を取り続けるべきではあるまい。

 「対話のドアは常に開いている」。行き詰まった中韓との関係を問われると、安倍首相は決まってこう答える。だが、事態はまだ動かない。中韓両国のかたくなな姿勢にも問題はあるが、相手の意見にも耳を傾ける大局観も必要ではないか。

 11月には北京で、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が予定されている。中韓それぞれの思惑から目を離すことなく、早急に隣国との関係を立て直したい。

 「遠交近攻」ではなく、このあたりで「遠交近交」に転じる時である。

(2014年8月4日朝刊掲載)

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