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社説・コラム

天風録 「ねんどの神さま」

 「ズッコケ三人組」の生みの親。子どもたちを楽しませる那須正幹さんが広島で原爆に遭ったのは3歳の時だ。戦争の愚かさを伝える作品も少なくないが、「ねんどの神さま」はとりわけ印象深い▲敗戦翌年の山村の小学校。家族全員を戦地や空襲で失った少年が、怪物のような粘土細工を造る。戦争をたくらみ、戦争でもうけようとする人間をこらしめる神なのだと。なるほどと周りの大人たちもうなずくのだが▲すっかり忘れて少年は成長し、都会で兵器会社を営む。そこに巨大化したあの怪物が現れて…。震え上がる造り主に、もういなくなった方がいいかと問う。「むかしみたいに、戦争がきらいじゃないみたいだからね」▲大人たちこそ思いを巡らせたい物語だろう。戦後半世紀を前に書かれ、ことし自選の童話集で再び世に出た。時を経て、平和憲法を取り巻く空気はさらに変わっている。もはや「神さま」は壊れてしまったのかどうか▲あす原爆の日。平和宣言の骨子を読んでも、揺らぐ世の中に被爆地がどう向き合うかは見えてこない。ただ那須さんの言葉は誰もがうなずくはずだ。子どもたちに問いかけ語りかけることが生き延びてきた人間の責任だ、と。

(2014年8月5日朝刊掲載)

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