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社説・コラム

天風録 「祖父との再会」

 8年前に他界した祖父と再会した。被爆者がそれぞれの8月6日を語る証言ビデオ。原爆資料館と国立広島原爆死没者追悼平和祈念館が収録を続けている。公開されている1224本の1本にあると、最近知る▲午前8時15分。30歳だった祖父は現在の北広島町から広島市に向かい、爆心地まで約6キロに差し掛かった。木炭車のガラス越しにピカッ、少ししてズドーンと地響き。その後一日中、被爆者を救護所に運んだ、と続く▲「まさに修羅場。助けて、水をくれと」。臨月の女性や医院前で息絶えた子が忘れられないとも。回り道したから直接の被爆を免れたとは初耳だった。「命拾いした」と、ぽつり。生前に聞いたつもりになっていたと気付く▲戦争はならぬと、語気を強めて語りは終わる。もう確かめられないが、なぜ証言に臨んだか凝縮されているように思う。若い世代に伝えたいからと、多くの被爆者が動機を本紙に語っている。同じ思いと受け止めたい▲69年前のきょう。一人一人に暮らしがあり、家族がいた。埋もれている歴史はまだまだある。胸にしまっておきたい記憶もまた、数知れないだろう。だが時は刻々と過ぎる。より心して耳を傾けなければ。

(2014年8月6日朝刊掲載)

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