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現場発2014 実効性確保 重い課題 松江市の原発避難計画 住民から疑問の声続出

 中国電力島根原子力発電所が立地する松江市が、原発事故に備え、3月に発表した広域避難計画。市は7月から、住民がまとまって避難する29地区ごとに説明会を始めたが、実効性を疑問視する声が相次ぐ。「円滑に避難できないのなら再稼働させるべきではない」との声も聞かれ、市は重い課題を突きつけられた格好だ。(松島岳人)

 「重大な事態に発展した場合の対応が、何も決まっていない」

「被曝必至」と憤り

 一部が原発5キロ圏の同市島根町で、7月22日に開かれた住民説明会。参加した市安全対策協議会委員の石橋寛さん(69)は「避難ルートは宍道断層が横切っている。複合災害で使用できなくなるのでは」と質問した。市の返答は「迂回(うかい)路を用意できない場合は、屋内退避をして道路の復旧を待ってもらう可能性もある」。「自宅退避では被曝(ひばく)は避けられないではないか」。石橋さんは憤った。

 市の避難計画は市民約20万6千人が、支所と公民館単位の29地区ごとに1地区約1万6千~1400人に分かれ、島根、広島、岡山3県の計29市町へ避難する。避難を計画通り進めるために始まった住民説明会は、これまでに8地区で開かれ住民計約650人が参加した。9月末までに残り21地区で実施する。

 説明会で参加者の質問は、避難ルートに集中する。市は、住民の7割が自家用車で避難すると想定。多くの車が同じ道に集中して渋滞が発生するのを避けるため、避難ルートを詳細に定めているが、市の姿勢に一貫性を欠く部分がある。

 約100キロ西の浜田市へ避難する原発10キロ圏の松江市城北地区には、市を東西に流れる大橋川に架かる二つの橋を渡るルートを指定している。7月24日にあった説明会では、「渋滞時に他の橋への迂回は可能か」との質問に、市は「指定されたルート以外は通らないでほしい」とした。

 だが、別の参加者の「家族のいる広島に直接向かっていいか」という問いには、「構わない」と答えた。60代男性は説明会後、「みんな自分の好きなタイミングで、行きたいところに行くだろう」と、計画自体に疑問を呈した。

全想定検討は困難

 中国電力と島根県、松江市は、島根原発の稼働、再稼働には県市の同意が不可欠との方針で一致。原子力規制委員会の審査が進む島根2号機について、いずれ審査が終了すれば、市は県とともに再稼働を判断する局面が訪れる。松浦正敬市長は、2号機の再稼働判断について「市民が不安を持ったまま了解できない」としているが、避難計画の実効性をどの程度加味するかは明らかにしていない。

 市は説明会で「計画は完全ではない。意見を生かして実効性のあるものにしたい」と強調する。だが、原発事故避難に詳しい環境経済研究所(東京)の上岡直見代表は「複合災害時のルートは、地震や津波など想定するべきケースが多すぎて検討し切れない。計画に実効性を持たせることは、考えれば考えるほど困難になる」という。その上で「実効性を持てないのなら、原発を稼働させないという選択もある」としている。

松江市の広域避難計画
 島根県が2012年11月に島根原発30キロ圏の39万6千人の避難計画を公表。これを受け、原発が立地し全域が30キロ圏に入る松江市が作成し、ことし3月に公表した。自家用車で避難する場合のルートや目的地となる避難経由所、バスで避難する場合の一時集結所などが詳細に定められている。

(2014年8月7日朝刊掲載)

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