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社説・コラム

天風録 「広島しぐさ」

 行き交う相手とぶつからぬように傘を傾ける。原爆の日のきのう、雨にたたられた広島市平和記念公園かいわいでそんな風景が目に付いた。「傘かしげ」と呼ばれ、260年以上も戦のなかった江戸生まれのしぐさらしい▲不戦を誓ってまだ69年と、江戸時代には遠く及ばない。だからこそ、だろう。ことしの平和宣言は「戦争文化ではなく平和文化を作っていく努力を」と唱えた。被爆国ならではのしぐさを育もうということではないか▲「広島しぐさ」といえる一つに夜明け前の8・6慰霊がある。式典の人混みを避け、こうべを垂れる被爆者や遺族は珍しくない。心を託して折る千羽鶴もスポーツ界に広まり、高校野球の甲子園大会ではすっかりおなじみである▲式典後、公園内の国際会議場で子どもの平和文化祭が催された。紙芝居や合唱あり、アニメあり。小1の男の子はサッカーW杯の各国代表ユニホームをポスターに描き、「みんなでパスをまわそうよ」と添えた。平和文化を担う新しい芽が頼もしい▲とはいえ、「核の傘」は次の世代まで押し付けるわけにいくまい。さて、どうやって畳むか。一つしかない地球に住む私たちの、頭のひねりどころである。

(2014年8月7日朝刊掲載)

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