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社説・コラム

『この人』 被爆者と若者のトークイベントを企画した 波多野瑠璃さん 

同じ空間で対話つむぐ

 「平和学習にアレルギーがある子は多い。でも、いつか被爆体験を聞けなくなるという危機感もちゃんとある」。言葉を選んで丁寧に話す。人間同士の対話を大切にしたいから。「『あの日』を知るため、語り合おう」と6日、被爆者と若者のトークイベントを企画した。

 広島市内の中学校に通っていたころ、原爆被害を学ぶ授業の感想文の最後はたいてい「原爆は怖い、平和が大事」と締めた。祖母が入市被爆した経験も聞いたが「そう書けば及第点だと思った」。関心が出たのは、旧日本軍がアジアで与えた加害を知ってから。物事を多面的に見る中で「平和な社会をどうつくればいいのかを考え始めた」。

 大学に進み、2年生で米国の大学に留学したときのこと。中絶や自死など複雑な問題がテーマの講義で、はっとした場面があった。考えや立場の違いはあっても、意見を真剣にぶつけながら互いの価値観をうまく融合させる学生たち。「同じ空間で対話をつむぐ作業こそ、互いの心に残る」と感じた。

 今の被爆証言は聴くだけに終わっていると思う。「被爆者も心の傷にふたをするため、無意識に証言を形式化してしまっているんじゃないかな」。それが結果的に、若い世代を食傷させてしまうのではないかと。

 被爆者という「人間」を知れば、その溝は埋められると信じている。トークの来場は予想を超える80人以上。「もっと語り合いたいはず。心の痛みを理解すれば、原爆が何をもたらしたのか、自分の問題として捉えられる」。大学で倫理学を専攻。広島市内で父母と暮らす。(加納亜弥)

(2014年8月7日朝刊掲載)

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