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集団的自衛権で溝深く 被爆者「命と安全守れぬ」 首相「平和の歩み不変」 閣議決定後初の8・6

 集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更の閣議決定後、初めて迎えた広島原爆の日。被爆者は6日、安倍晋三首相に閣議決定を撤回するよう「直訴」したが、安倍氏は従来の主張を繰り返してかわした。壮絶な被爆体験を原点に、核兵器廃絶と恒久平和を訴えてきた被爆者たち。行使容認による抑止力を強調する安倍政権との隔たりばかりが目立った。(城戸収、野崎建一郎、新谷枝里子)

 広島市の平和記念式典後に開かれた「被爆者代表から要望を聞く会」。広島被爆者団体連絡会議の吉岡幸雄事務局長(85)は「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」との原爆慰霊碑の碑文を引用し、閣議決定の撤回を迫った。「閣議決定は碑文の誓いを破り、過ちを繰り返すものだ」

 これに対し、安倍氏は「閣議決定の目的はたった一つ。わが国をめぐる安全保障環境が厳しさを増す中、国民の命と平和な暮らしを守るためだ」と回答。「平和国家の歩みは不変で、戦争をする国になるという考え方も毛頭ない」と重ねて強調した。

 第2次政権発足以来、日米同盟の強化に突き進んできた安倍氏。今回の閣議決定は、その取り組みの一環との位置付けだ。しかし、「要望を聞く会」に出席した被爆者7団体は、この日提出した要望書で「閣議決定での『現行の憲法解釈では命と安全が守れない』という主張は、被爆者の願いに背くもの」と非難した。

 懇談後、被爆者には落胆が広がった。吉岡事務局長は「広島、長崎に落とされた原爆は戦争の結果。集団的自衛権の行使容認は、その戦争を引き起こす一歩になる」と強く批判。広島県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長(74)は「予想した通りの回答だ」と切り捨てた。

 さらに集団的自衛権の行使容認は、被爆国日本が抱える「矛盾」をあらためて浮き彫りにした。核兵器廃絶を唱えながら、米国の「核の傘」の下で日本の安全保障体制の強化を図る―。核兵器の抑止力を前提とするためだ。

 もう一つの県被団協の坪井直理事長(89)は「日米同盟で日本の安全保障が成り立っていることは分かるが、核の傘から抜け出し正々堂々と核兵器廃絶を訴えるべきだ」と指摘した。

 原爆の日に、首相として2年連続で広島市を訪れた安倍氏。昨年は日程に組み込んでいた原爆資料館(広島市中区)の視察や原爆養護ホームの訪問を今回、見送った。「昨年行ったため」(官邸報道室)とするが、坪井理事長は不満を漏らす。

 「原爆資料館は毎回じっくり見てほしい。首相がそういう大事な所を抜かすのはどうか。解せない」。被爆地を速足で駆け抜けた首相。被爆者との擦れ違いばかりが浮き彫りになった。

(2014年8月7日朝刊掲載)

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