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米臨界前核実験が発覚 でも オバマジョリティー継続

■記者 金崎由美

 広島市の秋葉忠利市長は、22日の記者会見で「核兵器なき世界」をうたうオバマ米大統領の名を冠した「オバマジョリティー・キャンペーン」を続ける意向を示した。だが、政権初の臨界前核実験を9月に実施したことが判明し、被爆地には大統領への失望が広がる。被爆地の自治体が、核超大国の現職大統領の名を冠したキャンペーンの行方は不透明だ。

 日本語と英語で「オバマジョリティー」と書かれたパネルを背に、秋葉市長は険しい表情で記者会見に臨んだ。「核兵器のない世界を目指す方針を具体化するため、オバマ大統領が努力している大きな事実は変わらない」。臨界前核実験に強く抗議する姿勢を見せながらもキャンペーンの意義を強調した。

 オバマ大統領とそれを支持する多数派を組み合わせた「オバマジョリティー」。秋葉市長は昨年6月、その造語を旗印に、核兵器廃絶キャンペーンを進めると表明した。

異論は当初から

 その夏の平和宣言では「私たちはオバマジョリティーです」と世界に呼び掛けた。市は昨年度、PR用のロゴ入りTシャツやポスターの製作に274万円を支出した。

 秋葉市長がキャンペーンを提唱した当初から被爆者の間でも異論はくすぶっていた。核超大国の指導者に「依存するべきではない」との声だ。そして、今月12日に米国が事前公表せず臨界前核実験をしていたことが発覚した。「大統領のノーベル平和賞は何だったのか。裏切られた思いだ」。被爆地は失望と怒りに包まれた。

 「今がオバマジョリティーの旗を降ろす好機ではないのか」。キャンペーンの違法不当性を訴え、公金の支出差し止めを求める住民監査請求した龍谷大大学院の田村和之教授は活動断念を求める。請求は10月に棄却されたが、臨界前核実験を受け不当なキャンペーンとの主張を一層強める。

 秋葉市長の平和行政を評価する市議の中にも「この状況で続けても市民の支持を得るのは難しい」との意見が漏れる。臨界前核実験の判明後、市役所に寄せられたキャンペーンへの意見や苦情は5件にとどまる。キャンペーン自体の浸透度合いの低さを示す数字との見方もある。

 これに対し、秋葉市長が米国の大学准教授だった1980年代から知るジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、キャンペーンを知らないとした上で「臨界前核実験だけで、あれだけ世界に影響を与えたオバマ大統領の訴えの価値がなくなったと思うべきではない」とする。

再び賛否が交錯

 市が目標に定める2020年までの核兵器廃絶―。それを実現するための国際的な世論づくりを狙って、被爆地の市長が提唱したキャンペーン。しかし、その主役であるはずのオバマ大統領が政権後初めて、臨界前核実験をしたことで、キャンペーンへの賛否が再び交錯し始めた。

オバマジョリティー
 昨年4月のプラハ演説で「核兵器なき世界」を唱えたオバマ大統領をリーダーとする世界の多数派という意味の造語。広島市は、核兵器廃絶に向けた国際世論を盛り上げるキャンペーンの名称にした。市は賛同する市民も巻き込んでPR用グッズやポスター、音頭を次々と発案。市の職員名簿の裏表紙にもロゴマークを刷った。原爆資料館ではロゴ入りの白と青の2種類のTシャツを2千円で販売している。

(2010年10月23日朝刊掲載)

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