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社説・コラム

社説 防衛白書 自衛隊の役割 議論必要

 安全保障政策の転換に前のめりな安倍政権の姿勢が、より明確に映し出されたといえよう。2014年版防衛白書が閣議で了承された。

 中国の脅威が海と空でさらに増したと強調する。南シナ海への進出などを指して「力を背景とした現状変更の試みは高圧的」と指摘し、昨年の東シナ海での防空識別圏設定は「不測の事態を招きかねない」とした。

 抑止力を強める根拠というのだろう。悪化している日中関係を改善し、外交努力とバランスを取る考えは眼中にないかのように読める。

 自衛隊の変容を、注視しなければなるまい。

 海と空での警戒と離島防衛にページを多く割いている。13年度に中国機などへの航空自衛隊戦闘機の緊急発進の回数が急増したとし、「平時でも有事でもないグレーゾーン事態が増加傾向にある」と述べる。一触即発の戦闘につながりかねない事態で、自衛隊の役割が変化してきたことを示していよう。

 沖縄の尖閣諸島問題を念頭にし、安倍政権になって打ち出してきた機能強化を列挙した。離島への侵攻があった場合、速やかに奪回するため、専門部隊の水陸機動団(仮称)を新設する。垂直に離着陸でき飛行距離の長い新型輸送機オスプレイの導入も目指すという。

 いずれも、力を力で制する色合いが濃い。中国の国防省は声明で「意図的に脅威を誇張している」と反発している。中国がさらなる軍拡の口実にして、かえってアジアの不安定要因となる懸念は強まっている。

 さらに、集団的自衛権の行使容認へと憲法解釈を変更した、先月の閣議決定の内容を早速盛り込んでいる。「日本の平和と安全を一層確かにしていく上で、歴史的な重要性を持つ」とした。武力行使への歯止めが十分でなく、解釈変更による行使容認にはいまだ異論が強い。勇み足といえないか。

 集団的自衛権の行使によって自衛隊の役割がどう変わっていくか、これまでほとんど議論されていない。安倍政権は今後の関連法案の審議で示すようだが、順序が逆だろう。

 先月あった衆参予算委の集中審議で安倍晋三首相は、自衛隊員が負うリスクが高まる点を問われたものの、正面から答えようとしなかった。中東のホルムズ海峡での掃海活動も想定しているようだが、活動範囲すら明確ではない。

 自衛隊は発足して先月で60年を迎えた。違憲論もあったが、多くの国民が肯定し、信頼しているのは確かだろう。しかし海外派遣など、憲法の平和主義の理念とのずれはあいまいなまま、国際情勢の変化に合わせて、なし崩しに役割を拡大してきた側面は否めない。

 自衛隊にどの範囲まで役割を担わせるか、歯止めがないまま、安保政策を急激に転換させては国民が戸惑うばかりである。現に先日、共同通信が実施した世論調査では、閣議決定の説明について84%が不十分だと答えている。

 国を守るための活動だと国民から信頼されてこそ、自衛隊員は士気を保てるのではないか。国民の理解と活動にギャップがあるようでは何より現場が困る。いま一度、国民的な議論があってしかるべきではないか。

(2014年8月8日朝刊掲載)

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