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社説・コラム

社説 イラク空爆 戦争の道 再び歩むのか

 米国が進めてきたイラク政策の大きな転換点となるのは確実だ。米軍が、イラク北部で勢力を拡大しているイスラム過激派「イスラム国」への限定的な空爆に踏み切った。

 オバマ大統領は理由として二つを挙げた。一つは、米総領事館などイラク国内にいる米国人の保護である。もう一つは、イスラム国が制圧した北部地域で孤立している少数民族の住民を救出するためとしている。

 ただ空爆は一般市民が巻き込まれる恐れが大きい。限定的とはいえ、誤爆は付きものだ。ただちに中止すべきである。

 オバマ大統領は「米国が新たな戦争に巻き込まれることは許されない」と地上軍の派遣は否定している。これ以上、軍事介入をなし崩し的に拡大させることがあってはならない。

 オバマ政権は国際協調路線を掲げてきた。イラクの隣国シリアの内戦に対しても、いったんは空爆を表明しながら、実行は思いとどまった。

 イラクでもこれまで、過激派が支配地域を広げても、米国はイラク軍に助言する軍事顧問団の派遣にとどめ、戦闘に直接関与することは否定してきた。同国政府から空爆を求められても応じてこなかった。

 イラク戦争後、駐留していた米軍が2011年末に撤退を完了したことが、政権にとって大きな「成果」だったからだ。空爆は、出口戦略への歩みが再び後戻りすることを意味しよう。

 それなのに、ここにきて空爆に踏み切ったのは、まずはイスラム国の振る舞いが目に余るからにほかなるまい。

 イラク北部のシンジャールでは、少数民族の住民ら4万人が食料や飲料水が不足した状態で近くの山頂に追い詰められているという。米軍が輸送機から救援物資を現地に投下する作戦を進めてきたことは、人道上の措置として理解できよう。

 加えて、米国内の事情も背景にあるのだろう。

 11月の中間選挙を控え、野党の共和党はオバマ政権のイラクへの対応について「弱腰」批判を強めている。世論調査でも、大統領の外交政策への支持率は下がっているようだ。

 しかも与党民主党の劣勢が予想されている。このため、世論に押される形でこの先、大統領が本格的な空爆を命じる可能性も、あながち否定はできまい。

 折しも、パレスチナ自治区ガザを支配するイスラム原理主義組織ハマスと、イスラエルは一時停戦の期限切れまでに本格停戦の合意に至らず、再び戦闘を始めた。  仲介役を担うべき米国がイスラエル向けに、防空ミサイル調達の資金援助を決めたことが反発を買っている。

 こうした姿勢をオバマ政権が続ける限り、ますます中東諸国の信頼を失うだろう。米国への憎しみが強まり、新たなテロを生むという悪循環にもつながりかねない。

 中東情勢の流動化は、原油の高騰などを通じて世界全体の不安定化を招く。日本でもきのう日経平均株価が450円以上も下落したのは、そうした危機感の表れといえよう。

 岸田文雄外相はオバマ政権の空爆容認について、直接の評価は避けている。同盟国として米国に追随するのではなく、慎重な対応を求めてもらいたい。

(2014年8月9日朝刊掲載)

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