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日本人の姿を現代に問う 「ナンバーテンブルース さらばサイゴン」 16日から広島上映 

 ベトナム戦争末期の1975年、現地でオールロケを敢行。戦火をかいくぐって撮影、完成しながら、40年近く一般上映がかなわなかった映画がある。広島でも劇場公開が始まる「ナンバーテンブルース さらばサイゴン」。長田紀生(おさだ・のりお)監督(72)=写真=は「今の日本人に突き付けたい映画」と語る。(道面雅量)

 昨年1月のオランダ・ロッテルダムを最初に海外の映画祭で先行上映され、「奇跡の映画」と評判を呼んだ。ロケをしたダナンやフエなど南ベトナムの各都市は、撮影直後に北ベトナム側の猛攻を受け、次々に陥落。宿泊したホテルが翌日、砲撃され全壊したことも。首都サイゴン(現ホーチミン)は、帰国便の出た1週間後に陥落した。

 「大げさでなく、命懸けで撮った。あの激戦下でこんな映画が―と驚きをもって迎えられた」

 ただ、注目されたのはロケの逸話だけではない。「娯楽作品に込めたメッセージ性が、今の日本映画にはない魅力と言ってもらえた」。川津祐介演じる主人公の日本人商社マンは、ベトナム人の恋人から献身的に愛されるが、救い難いおごりを抱えた人物で、それゆえの転落が待ち受ける。

 経済力信仰にとらわれた日本人像。その姿はしかし、「今も変わってないのでは」と監督は問う。「あれほどの事故を起こしながら原発を再稼働し、輸出しようとする日本人と」

 75年の完成当時、お蔵入りになったのはプロデューサーとの意見対立が原因という。「やはり日本人像をめぐる対立だった」。プロデューサーはフィルムを再編集して配給を試みたが、不調に終わり、オリジナル版も封印された。東京国立近代美術館フィルムセンターでオリジナルが発見されたのは2012年だった。

 版権問題をクリアして試写会を開くと、「若い映画仲間がこぞって『今こそ世に問うべき作品』と推してくれた」。海外に続いて国内でも、尾道、福山両市で開かれた「お蔵出し映画祭」、広島市での「ヒロシマ平和映画祭」などで紹介され、話題に。今春、劇場公開が始まった。

 「ある種の毒もはらむが、アクション満載のエンターテインメント。まずは楽しんでほしい」。16日から広島市中区のサロンシネマで上映。初日の午後6時15分から監督のトークもある。

<ナンバーテンブルース さらばサイゴン>
 商社のベトナム駐在員杉本俊夫(川津祐介)が殺人を犯してしまい、戦火の渦巻く中、国外逃亡を図る物語。恋人役に当時の南ベトナムのスター歌手で、後に米国に亡命したタン・ランを起用している。「ナンバーテン」は「最低のやつ」といった意味。

(2014年8月9日朝刊掲載)

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