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伝えたい 被災者のいま 福島県いわき市の震災ガイド・里見さんに同行 むしばむ「分断」隠さず語る

 原発地帯に隣り合う福島県いわき市でいま、何が起きているか―。地元で老舗の温泉旅館を営む里見喜生(よしお)さん(46)は「実像を知ってほしい」と震災ガイドに立つ。被災者感情をむしばむ「分断」も隠さない、きれいごと抜きの語り口が観光客を引きつけている。(石丸賢)

 先月下旬、三原市のNPO法人「兎(と)っ兎(と)」が呼び掛けた被災地ツアーで、小学生から70代まで計19人がいわき市を訪問。一行に加わり、里見さんとバスで市内を巡った。

 「風景の落差をぜひ見てほしい」と案内されたのが県内最大級の新興住宅団地、いわきニュータウン。小ぎれいな一戸建ての家並みが続く大通りから脇道に入る。突然、プレハブや木造の平屋が並ぶ一帯が現れる。被災者が住む仮設住宅だった。

 30万人都市いわきには、原発事故から逃れた双葉郡の住民がどっと流れ込んだ。震災4年目の今も2万人以上が市内にとどまっているという。古里に戻ろうにも買い物や通院の生活インフラが整っておらず、便利な仮設暮らしを続ける高齢者は少なくない。

 一方で、いわき定住を決め、ニュータウンに新居を構える被災者も増えている。「建築バブルで新築は2年待ちの状況」と里見さん。そんな動きをみて、「働きもせず、賠償金で結構な暮らしだな」とやっかむ声さえ聞こえるそうだ。

 地域社会にも亀裂はのぞく。子どものいる家庭は放射性物質に対する不安から、いわきを去るか残るかの判断でさいなまれ続けている。離れた人と居残った人との間で非難の応酬もあったという。

 ただ、放射性物質の連想で広島や長崎の被爆と同列に論じられること自体、里見さんにはぴんとこない。むしろ「公害の水俣病や沖縄の基地問題の構図の方がダブる」と言う。

 加害企業や米軍の恩恵にあずかった人もいて、被害感情に濃淡がある。利害で絡め取る「城下町」は、原発の地元でも形づくられていた。

 国策だった点でも重なる。「地方が翻弄(ほんろう)される構図は、福島も一緒」

 被災地からは国策の流れがよく見える、とも。ゼネコン関係者の知人が言うそうだ。「防潮堤と除染の工事は大手を振って仕事ができる」。かつては、それが道路やダムだった。

 この日、津波と火災で店舗兼住宅を失ったものの、小学校の一角を借りて再開した仮設商店街にも立ち寄った。再建資金もなく、1年先が思い描けなくても「生かされた命だから」と店に立つあるじのつぶやきも一行に伝えた。

 震災ガイドは里見さんにとって、NPO法人「ふよう土2100」理事長としての活動である。震災をくぐった世代が、次の世紀の子どもを育む「腐葉土」にならねば―との思いで復興支援などに当たっている。

 この2年で約1600人を仲間と受け入れた。1人からでも案内する。「ツアー客と語り合いつつ、地域の未来に思い巡らせる時間だから、かえって小人数の方が好都合」と話す。

 復興の現場には、さまざまな思いが渦巻く。その背景も含め、伝えることに心を砕く。どんな経験も肥やしにしてみせる―。そんな覚悟の証しに見える。

 スタディーツアーは午前10時半から約4時間。里見さん経営のいわき湯本温泉「古滝屋」から出発する。参加費3千円。問い合わせはホームページか電子メールで。メールアドレスfuyodo2100@gmail.com

(2014年8月9日朝刊掲載)

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