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社説・コラム

天風録 「ビリョクだけど…」

 ビリョクだけどムリョクじゃない―。思わず膝を打つフレーズを、きのうの長崎市の平和宣言が紹介していた。毎年、核兵器廃絶を求める署名を国連に届けている高校生たちの合言葉だ▲署名は既に100万筆以上を集めたという。しかもアフガニスタンなどに鉛筆を、フィリピンの子どもには奨学金を送っている。無力どころか微力というのも謙遜が過ぎる。むしろ私たち周囲の大人こそ、己の非力さ加減を自覚すべきかもしれない▲長崎の式典に参列したこの人はどう聞いただろう。非核三原則の堅持と核兵器廃絶に、さらには世界恒久平和の実現に「力を惜しまぬ」とあいさつした安倍晋三首相である▲実はこのくだり、6日の広島の式典でも全く同じだった。ついでに昨年の紙面を繰ってみると首相は二つの被爆地で、しかも同じ箇所で「力を惜しまぬ」。きっと原稿を用意する取り巻きがコピペを重ねたに違いない▲原爆の日を軽んじているとの批判が出ている。一方、欠かせぬ誓いなら何度でも繰り返せばいいとの考えもあろう。ただ為政者に問われるのは、自らの言葉に責任を持ち、全力を傾けて結果を出すこと。両被爆地が求めるそれは、核なき世界だ。

(2014年8月10日朝刊掲載)

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