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社説・コラム

社説 ASEAN外相会合 確かに対話はできたが

 毎年夏の恒例となった東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムと一連の外相会合がミャンマーで幕を閉じた。1994年に始まって20年、多国間外交の舞台としての重みはさらに増したといえよう。

 ASEAN加盟国にとどまらず日本や米中、韓国・北朝鮮など計26カ国と欧州連合(EU)から外相が集う枠組みだ。南シナ海の領有権問題などをめぐって強硬姿勢を崩さない中国にどう自制を促すか。北朝鮮の核・ミサイル開発への歯止めは―。注目されたテーマは予想通り、両国から激しい反発が出て議論としては生煮えに終わった。

 参加国の思惑の違いが露呈した面もある。例えばASEANとして出した共同声明は、親中派のカンボジアなどの要求で尖閣諸島を含む東シナ海情勢が丸ごと削除されたと聞く。

 そもそも利害が絡み合うアジア太平洋地域の政治課題が1回の会議で解決するはずもない。自由な意見交換から信頼醸成につなげることが、フォーラムの目的である。対立関係にある国々も含め、さまざまな組み合わせで閣僚対話の道が開けたことは十分な成果だろう。

 その点でいえば、日本はそれなりの土産を持ち帰る格好になる。岸田文雄外相が韓国や中国との外相会談を実現させた上、拉致問題の再調査を約束している北朝鮮の外相と「接触」を果たせたからだ。

 とりわけ日中外相会談が約2年ぶりに行われた意味は小さくない。1時間にわたって岸田氏と王毅外相が協議した詳細は非公開とされるが、日本側が11月に北京であるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際に懸案の首脳会談が実現するよう働きかけたのは間違いない。

 しかし中国側の説明によれば王氏は原則的立場を主張した上で「政治的な障害」を取り除くよう岸田氏に求めたという。つまり尖閣問題や首相の靖国神社参拝問題を指すのだろう。

 確かに中国側には対日強硬路線を和らげる兆しが出てきた。対中投資の激減が背景との見方もある。岸田氏と王氏の会談もその流れとみていいが、首脳会談に向けた神経戦はさらに続きそうだ。関係改善が一気に進むというのは早計ではないか。

 一方、昨年9月以来となった日韓外相会談の方は両国関係の厳しさを浮き彫りにした。尹炳世(ユンビョンセ)外相は冒頭から歴史認識などで日本政府の対応を厳しく非難したという。外交当局の対話継続は約束したが、首脳会談への展望は依然として開けない。

 行き詰まった2国間関係を打開するために、多国間外交の機会を生かすのは重要な手段だろう。ただ、多分に外交儀礼という要素が伴うことも計算に入れたい。外相会談の成立自体を必要以上に自賛することはない。正攻法の外交交渉に向けた対話のきっかけと割り切り、新たな一手につなげるべきである。

 APECの場を借りた日中首脳会談についても同じことがいえるだろう。それ自体が目的なのではなく、関係を再構築する一歩にすぎないはずだ。

 少し気になるのは首相が近く内閣改造に踏み切り、外相交代の可能性もあることだ。閣僚人事は内政問題とはいえ、せっかく膝詰めで話をしたばかりの相手からすれば振り出しに戻った印象を受けないだろうか。

(2014年8月12日朝刊掲載)

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