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戦時中の恩 世代超え絆 東広島の石井さん 子孫と交流続く

 陸軍に所属していた東広島市福富町久芳の石井周三さん(87)が、太平洋戦争末期に訪れた宮崎で世話になった一家に感謝の思いを伝え続けている。10日ほど泊めてもらっただけだが、優しい夫婦とにぎり飯の記憶は鮮明に残る。戦後69年。夫婦は亡くなり子や孫の代になっているが、今も手紙や贈り物を届けている。(新本恭子)

 下関市に本拠を置く部隊に所属していた。19歳だった1944年11月~45年3月、宮崎市で、壕(ごう)を掘り大砲を設置する任務に就いた。学校や集会所が宿所だったが、3月ごろ、仲間数人と一緒に、農業を営んでいた小松利明さん(66年に77歳で死去)宅に滞在した。

 「小松さんも息子3人を兵隊に出していたからか、よくしてくれた」。食料事情が悪いにもかかわらず、妻の為治(ためじ)さん(76年に88歳で死去)はサツマイモや鶏を食べさせてくれた。農家出身の石井さんは率先して農作業を手伝った。

 命令で急に宮崎を離れることになった。見送りに来た駅で手を振り続けていた為治さんの姿が忘れられない。「実の親と別れるようで、言葉にならなかった」。にぎり飯も持たせてくれた。

 戦後、帰郷した石井さんが礼状を送り、交流が続いた。夫婦の他界後も面識のなかった息子や孫とのやりとりを続けた。年に数回、墓前にと花代や酒を送る。

 孫の健二さん(73)=宮崎市=は「わずかな滞在をこんなに長く気に掛けてくれるとは」と驚く。石井さんは「にぎり飯が本当にうれしかった。とても恩返しはできない」と繰り返している。

(2014年8月12日朝刊掲載)

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