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社説・コラム

天風録 「ビルマの記憶」

 庭の隅にぽつりと置かれていた。旧日本軍の装甲車の残骸が目に留まった。朽ちてはいるが、辛うじて元の姿がしのばれる。ミャンマー中部の町メークテーラーにある寺院を昨年訪ねたときのこと▲この町は太平洋戦争末期、日本軍と英連邦軍の激戦地となった。さび付いた銃や剣、シャベル…。仏塔には日本兵の遺品も収められている。多くの戦友や遺族が戦後慰霊に来ていたが、最近は随分少なくなったという▲かの地の戦闘を目の当たりにした広島・世羅の向井正三さん(91)に話を聞いた。召集令状を受け取ったのは21歳のとき。陸軍の山砲部隊に配属され、要衝の町を取り戻す作戦に加わる▲相手は戦闘機や戦車ですさまじい攻撃を続けた。友軍は敗退し、同じ中隊の砲手たちは砲弾を浴びて全滅したという。向井さんは「山岳地帯の中を撤退するとき、飢えや病で倒れた兵隊の姿も忘れられん」と振り返る▲かつてビルマと呼ばれた国では19万人の日本兵が命を落とし、おびただしい遺骨が残される。一人一人の人生を思わずにはいられない。ちっぽけにも感じられた、くだんの装甲車。乗り込んだ兵はどんな運命をたどったのだろう。きょう69回目の終戦の日。

(2014年8月15日朝刊掲載)

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