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社説・コラム

社説 戦没者追悼式 「平和への誓い」生かせ

 「変えてはならない道がある」「平和への誓いを新たにする」。全国戦没者追悼式における安倍晋三首相の式辞の中で、耳に残った。昨年はなかった言い方である。集団的自衛権の行使容認に対する国民の批判を意識したのかもしれない。

 ただ重要な部分が省かれたのはやはり気掛かりだ。1年前に引き続いて「不戦の誓い」にまたしても言及せず、さらにアジア諸国に対する加害と反省についても触れなかった。

 これで国内外の信頼は得られるだろうか。変えてはならないという言葉と裏腹に、安倍政権が安全保障政策や歴史認識について歴代政権と明らかに違うスタンスを示してきたからだ。

 きのうは首相側からすれば中韓両国に対し、一定のカードを切ったのは確かだろう。靖国神社の参拝を見送ったことだ。中国などは繰り返し参拝しないよう求めていた。この局面で対立をエスカレートさせる行為を慎むに越したことはない。

 ただ従軍慰安婦問題など歴史認識をめぐる対立が深まる中で日韓関係、日中関係の改善にどこまでつながるかはまだ見通せない。日本が過去の戦争と植民地支配の歴史を直視し、二度と戦争を繰り返さない姿勢を明確にすることが、相手にとって何よりの前提のはずだ。その点でいえば大きな節目の日に、メッセージを送る機会を十分に生かせなかったことになる。

 むろん関係改善が望ましいのは両国も同じだろう。きのうの反応を見る限り、あえて厳しい批判は避けた感もある。

 韓国の「光復節」における朴槿恵(パク・クネ)大統領の演説では来年に日韓国交正常化50年を迎えることにまず言及し、「未来志向の友好協力関係を築かねばならない」とした。その上で慰安婦問題の解決を求めたが、日本政府の河野談話検証などの動きを直接、批判はしなかった。

 中国はどうか。安倍政権の閣僚らの靖国参拝について反発する談話は出したが、昨年のように日本の大使を呼び出す抗議までは見合わせたようだ。

 両国とも経済関係の悪化を懸念する声が国内に出ている。その点が背景にあるのかもしれない。だからといって日本が過去の歴史について謙虚さを失うことがあってはならない。「未来志向」とは、加害の側が反省をないがしろにしたまま開き直ることではないからだ。

 首相は戦後70年で自らの談話を発表する方針という。かねて「戦後レジームからの脱却」をうたい、この1年で自分のカラーをより鮮明にしたい思いもあるようだ。しかし一方で戦後50年にアジアへの謝罪を明確にした村山談話や、河野談話は現政権も継承を表明している。ならば新たな談話を出すにしても、歴代内閣が築いてきたものを無視していいわけがない。

 きのうの式辞で首相はパプアニューギニアで戦死した兵士たちや海外に残る遺骨に触れた。いまだ帰還しない約113万人分の遺骨収集に取り組む決意といえよう。当然、必要なことである。ただ同時に戦争に巻き込んだ他国の犠牲者にも、もっと思いをはせるべきではないか。内向きの発想だけでは困る。

 「平和への誓い」をアジアに対してどう果たしていくのか。首相はより具体的な行動で示す必要があろう。

(2014年8月16日朝刊掲載)

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