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社説・コラム

社説 北方領土の軍事演習 大統領訪日どころでは

 いくら実効支配されているとはいえ日本の領土である。容認できるはずもない。

 ロシアが北方領土4島のうち国後、択捉両島で千人規模の軍事演習をおとといまで実施した。ヘリコプターや100台以上の車両が参加し、島への上陸訓練もあったという。本格的な演習は2010年7月以来とみられ、秋には再び同様の演習を予定しているようだ。

 69年前のきょう旧ソ連が千島列島に侵攻し、9月5日までに4島を占領した。地元には、そうした歴史的事実を思い起こした人も多いはずだ。

 この軍事演習には、何の意味があるのだろう。日本への露骨な挑発行為とみられても仕方あるまい。ウクライナ問題やマレーシア機の撃墜事件が背景にあるのは想像に難くない。先進7カ国(G7)の一員として日本が対ロ制裁を強化したことへの反発とともに、欧米のスタンスから距離を置かせるための揺さぶり戦術との見方もできる。

 伏線は確かにあった。今月5日に外務省次官級協議の延期を一方的に通告したことだ。しかし日ロ間の最大の懸案である北方領土を政治利用するなら、日ロ関係を大きく損ないかねないことは分かっていよう。

 北方領土ではソ連時代から国後、択捉両島には陸軍を駐留させている。10年に当時のメドベージェフ大統領が国後島入りして緊張が高まったのは記憶に新しい。ただ12年に再び大統領に就任したプーチン氏の姿勢は異なるはずだ。

 天然ガスの輸出や極東シベリアの開発という経済協力を引き出したい。そんな思惑はあるにせよ安倍晋三首相と首脳会談を5回開いて個人的な信頼関係を築き、領土問題が進展することへの期待も確かに出ていた。

 その友好ムードも本気だったのかと思いたくもなる。日ロ関係は不透明さをさらに増している。このままでは今秋に予定された日ロ首脳会談の取りやめは確実な情勢といえよう。

 この問題で見えてくるのは、国際社会に対して軍事力を誇示する手法だろう。それはウクライナ問題にも共通する。

 プーチン氏には強く自制を促したい。日本へのけん制などしている暇はないはずだ。

 いまロシアがなすべきことは明らかだ。親ロ派の勢力を後押しするウクライナ東部の紛争を終わらせることである。発生から1カ月が過ぎたマレーシア機撃墜も真相解明が遅れている。非協力と指摘される態度も早急に改める必要がある。

 日本の対応はどうか。安倍首相は軍事演習に対して「到底受け入れることはできない」と抗議はした。しかし事前の中止要請が全く無視されたのに、それほど怒りは伝わってこない。

 首相が意欲を見せていた首脳会談にしても、この事態を受けてどうするかはあいまいなままだ。そもそもG7は対ロ制裁で足並みをそろえるはずだが欧米が踏み切った中身に日本が追随していない部分もある。ロシアへの遠慮が透けて見える。

 もはや日本側から大統領訪日の先送りを通告すべき段階だ。

 むろん隣国と対話のパイプを保つのは当然のことだ。しかし領土問題で毅然(きぜん)とした姿勢を示さないなら尖閣や竹島で対立する中国や韓国に対して筋が通らないのではないか。

(2014年8月18日朝刊掲載)

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