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社説・コラム

社説 イスラム国 国際テロの拠点化防げ

 イラクやシリアで台頭するイスラム教スンニ派武装組織「イスラム国」が、国際的な脅威に変わってきた。オバマ米大統領は9月の国連総会に合わせ、この問題を討議する安全保障理事会の会合を主宰する。

 イスラム国には外国人戦闘員が多数加わり、周辺国への浸透もうかがう。国際テロ活動の温床になりかねず、このまま手をこまねいてはいられない。

 だが、米国が今月に入って踏み切ったイラク北部への限定的空爆も、市民を巻き込みかねない。米国内では本格的介入を求める意見と、深入りすることを恐れる意見とが交錯している。国際的な包囲網で動きを封じるべきだろう。

 イスラム国はシリアで「第三極」として台頭し、隣国イラクではことしに入り急速に勢力を伸ばした。6月上旬に第2の都市モスルを制圧した後、北部にあるクルド人自治区の中心地アルビル周辺への圧力を強めた。

 これにより、クルド少数派のヤジド(ヤジディ)派住民数万人が山岳地帯に追い詰められている。米軍は食料や医薬品を投下する一方、周辺で限定的な空爆に踏み切った。アルビルには外交官や6月以降派遣された軍事顧問が駐在し、米国人の安全が脅かされる状況にもあった。

 だが空爆に対し、イスラム国も報復と思われる行動に出た。拘束中の米国人ジャーナリストを殺害し、その映像を公開した。2年前にシリア北部で行方不明になっていた民間人で、米国の軍事作戦とは直接関係がないはずだ。断じて許されない。  ここにきてヘーゲル米国防長官もイスラム国について「これまでの、どの組織よりも潤沢な資金を擁している」との認識を示した。資金源は制圧した油田の原油の密売や誘拐身代金、さらには一部の産油国から集めているともいわれる。

 しかも外国人戦闘員を多数抱え、その数が増えている点は見過ごせない。ネットで全世界に「参戦」を呼び掛ける手法は、中東以外の若者の暴走を誘発しかねない。イラクやシリアだけの問題ではなくなるのだ。

 だが、イスラム国台頭の責任の一端は、イラクのマリキ政権が国内の宗派対立を深めてきたことにもある。イスラム国は、政権のシーア派偏重による国内混乱を突く形で攻勢を強め、イラクは分裂の危機に陥った。退陣を表明したマリキ氏も、挙国一致の内閣づくりに協力すべきだろう。

 一方、米国が強硬姿勢に転じつつあることは米中枢同時テロのトラウマでもあろう。オバマ大統領は「米国が新たな戦争に巻き込まれることは許されない」と、イラクへの地上軍派遣は否定しているようだ。半面、11月の中間選挙を控え、野党の共和党は「弱腰」批判を強め、守勢に立たされている。

 場合によってはイスラム国の補給路を断つため、シリアにも空爆を行う可能性があるのではないか。だが、シリア北部でイスラム国に拘束されている日本人男性を含め、市民を巻き込む不測の事態を招きかねない。

 当面はイラク政権やクルド自治政府を支援する形で、イスラム国が実効支配するエリアを広げないことが肝要だろう。外国人の「参戦」を、出身国の水際で防ぐような手だても講じなければなるまい。

(2014年8月24日朝刊掲載)

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