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社説・コラム

著者に聞く 「海・川・湖の放射能汚染」 湯浅一郎さん 人類の姿勢 省みるべき

 福島第1原発事故から3年余り。放出された放射性物質はそれぞれの半減期によって減衰するが、海洋物理学者の著者に言わせれば「半減期の長い物質群は水や生物の体内に浸透し、ただ居場所を変えているだけ」。

 「海の放射能汚染」(緑風出版)をまとめたのが2年前。本書はその続編だ。前作ではまだ解析できるデータも少なく、世界の核実験や核再処理の影響を参考に水産物の汚染状況や生物濃縮などを予測・分析。世界三大漁場の一つ、三陸沖の汚染が長期化する可能性を指摘した。

 懸念は現実に。「原発はいったん対応を誤ると、人間の手に負えない代物。海や生物が身をもって放射能汚染の過酷さを示し、警告を発している」。昨年3月には第1原発港湾内のアイナメから魚類では過去最大値の高濃度の放射性セシウムが検出され、汚染水が漏れ続けていることも明らかに。

 「この3年の水圏汚染の経過を詳しく追えば、事故の全体像や問題の本質も見える」と、今回は事故発生から今年3月までの文部科学省や水産庁、環境省などが発表した放射性物質の推定放出量や、海水、海底に含まれる濃度、魚類の測定値などのデータを横断的に分析。地図や表を用いて分かりやすく解説した。事故直後に海へ放出された汚染物質のその後の流れ、陸に降り注いだ放射性降下物が河川や地下水に溶け込んで海や湖に運ばれていることが、本書からはっきり見える。

 学生時代を仙台市で過ごし、研究者の立場から女川原発(宮城県)の反対運動に関わった。1975年に通産省中国工業技術試験所(現在の産業技術総合研究所)に入り、呉市に暮らした約30年間は、市民運動家としても核など科学技術の在り方を問い続けた。今は核・軍事情報のシンクタンクNPO法人ピースデポ代表も務める。「欲望のままに科学技術を利用し、都合の悪いものは全て海に放り出せば解決するという姿勢はいつかしっぺ返しを食らう。人類は、産業革命以降の営みをいま一度省みるべきです」(森田裕美)(緑風出版・3024円)

ゆあさ・いちろう
 1949年東京都生まれ。東北大大学院修了。理学博士。著書に「科学の進歩とは何か」(第三書館)など。東京都在住。

(2014年8月24日朝刊掲載)

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