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社説・コラム

「共生」の心大切に 善光寺大本願 鷹司上人に聞く 平和や復興…絆が力

 1400年近い歴史のある善光寺(長野市)は、仏教の宗派を超えて厚い信仰を集め、年間約600万人が参拝する名刹(めいさつ)だ。広島市中区で始まった「善光寺大本願展」に合わせて広島市を訪れた鷹司誓玉上人(84)に、信仰の現状や、現代人の心の在り方を聞いた。(桜井邦彦)

 ―人々は何を求めてお参りしているのですか。
 極楽往生を願う方が多い。講という団体でのお参りが目立つ。ご本人が来られない場合、講の世話役が代わりにお札やお守りを受けて帰り、皆さんに分ける習慣が古くからある。盛んになったのは江戸時代。「牛に引かれて善光寺参り」という言葉があるほどです。

  ―無宗派の善光寺は二つの寺が護持し、そのうち大本願は浄土宗。上人として、どんな教えを大切にされていますか。
「一人ではできぬ」

 信仰の大切さを感じ、積極的に生きていく力を仏様からいただければよいと思う。浄土宗には、「共生(ともいき)」という教えがある。自分を向上させていただきながら、世の中もよくする。ともに生きていくという心構えですね。どんな人でも、自分一人で生きていける人はいない。

 ―2011年の東日本大震災を機にクローズアップされた、「絆」とも通じる教えでしょうか。
 そうですね。ずっと昔から言われていたが、近ごろのように災害が多いと、復興も自分一人ではできない。私も震災の約1年後、福島県を訪ねた。親子や兄弟がばらばらになり、悲しい思いをしておられる方がいた。私は小さな個人として何もして差し上げられず、ざんきの気持ちです。絆は「生き綱」と言われる方がいたが、助け合う心は本当に大切だと思う。

 ―自己中心的になりがちな現代人にとって有意義な考え方ですね。
 寂しいことですが、和合という面でも現代社会は希薄。今、非常に犯罪が増えている。若年層や子どもに多いのは恐ろしいこと。あまりにも現在のことにこだわり過ぎ、人を思いやる気持ちが薄くなっている。学校の教育の方法も、ただ学問の内容、試験の点数にこだわり過ぎ、根本にある大事な目的を忘れているのではないか。家庭生活でも親と子の気持ちのずれがあるようです。

 ―浄土宗の念仏往生の教えには、どんな意味があるのですか。
和やかに生きよう

 お念仏は仏様への信仰であり、報恩感謝の気持ちを込めて申すことが大切。多くの人との共生の気持ちも、それによって伝えることが含まれている。いろんな意味が込められているが、お念仏を申し、互いに和やかに生きていきましょうということです。

 ―ヒロシマは核兵器廃絶や世界平和を願っています。メッセージを一言いただけますか。
 復興が進んで立派な街になった広島を拝見し、心を打たれた。そういうことも一人一人ではなかなかできない。皆さんで力を合わせてここまで再建された。これからも大切な心構えであり、実践もしていただきたい。世界平和は一国、一民族だけの問題ではない。みんなで力を合わせ、同じ心になって努力していくことが大切だと思う。

 「善光寺大本願展」(中国新聞社主催)は9月2日まで、広島市中区の福屋八丁堀本店で。

たかつかさ・せいぎょく
 1929年生まれ。東京都杉並区出身。慶応大文学部卒業。55年、善光寺大本願に入山し得度した。その後、大谷大大学院修士課程を修了。97年に第121世上人となった。ことし4月から全日本仏教会の副会長を務める。

善光寺
 644年の創建で、本尊は秘仏の一光三尊阿弥陀(あみだ)如来。無宗派で、天台宗の寺である善光寺大勧進と、浄土宗の寺である善光寺大本願が護持している。住職は、大勧進貫主と大本願上人の2人。前立本尊を7年(数え年)に1度開帳し、次回は来年4月5日から5月31日に予定されている。

(2014年8月25日朝刊掲載)

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