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社説・コラム

社説 福島第1の汚染水 「凍土壁」大丈夫なのか

 先行きにいっそう不透明感が増している。東京電力が進める福島第1原発の汚染水対策だ。

 電源ケーブルなどが通る地下道にたまった高濃度の汚染水の抜き取りに重点的に取り組んでいる。海に漏れ出すのを防ぐ目的である。

 その準備のため地下道と建屋との接続部分を凍らせ、水の流れを止める作業を続けていた。ところが完全に凍結させることができないという。

 東電は追加対策としてセメントや粘土といった止水材を投入したい考えだ。だが、どれだけ効果があるのかは見通せない。

 先週、原子力規制委員会の検討会で東電が止水材を使う方針を説明すると、委員からは厳しい意見が相次いだ。追加対策の実効性を疑問視したり、泥縄式に陥ることを心配したりする内容である。

 リスクを甘く見がちだったこれまでの東電の姿勢を思えば、こうした懸念は当然だろう。今回の凍結作業を見ても、場当たり的な対応を重ねている印象は変わらない。

 東電はことし4月、地下道と建屋の接続部分を凍らせる作業を始めた。しかし思うように進まず、7月には氷やドライアイスを投入した。それでも全体の9割しか凍結せず、さらなる手だてを迫られていた。

 規制委の検討会は、東電の追加対策を認めるかどうかの決定を9月の次回会合に持ち越した。止水材を使えば一時的に発熱する可能性もあり、悪影響を及ぼす恐れも否めないからだ。慎重な判断が求められよう。

 今のままでは、東電が汚染水対策の柱と位置付ける「凍土遮水壁」の整備も揺らぐ。計画では、1~4号機の建屋を囲むように1500本余りの凍結管を縦に埋め込み、全長約1・5キロにわたる凍土壁を造る。

 この凍土壁と地下道は交差する箇所がある。こうした構造上、地下道と建屋の接続部分を凍らせて地下道内の汚染水を抜き取ることが、凍土壁設置の前提となっている。

 東電は6月、凍土壁のための凍結管の埋設工事を始め、来年3月末の完了を目指している。ただ今回の接続部分の作業が滞れば、凍土壁の工事にも大きな遅れが出かねない。

 さらに気になるのは、技術的に計画通り凍土壁を造れるのかということだ。原発事故への対応に限らず、これほど大規模に整備する例はない。同様の凍結管を使う接続部分の作業が難航していることを考えると、疑念は拭えないどころか、ますます膨らんでいるといえよう。

 汚染水対策については、政府も東電任せにせず、前面に立つ方針を示している。今月、事故の賠償に加え、廃炉や汚染水対策の支援を担う新組織「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」を発足させたばかりだ。しかし現状を踏まえれば、政府の関わり方は十分とはいえまい。

 政府は東電と連携し、凍土壁の整備を急がなければならないのはもちろんだ。事がうまく進まない場合の代替策も、今から考えておく必要があろう。

 原発事故から既に3年5カ月余りが過ぎた。汚染水問題にめどが立たない限り、事故の収束は全く見えてこない。政府と東電はリスクを最大限に見積もった上で、万全の手だてを尽くすことが不可欠である。

(2014年8月25日朝刊掲載)

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