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社説・コラム

社説 米黒人青年射殺 差別根絶の取り組みを

 白人警察官による黒人青年射殺事件が、米国社会を揺るがしている。現場となったミズーリ州ファーガソンでは抗議デモが広がり、一時、非常事態宣言が出された。デモ隊と武装した警察とのにらみ合いが続く。

 抗議活動は沈静化に向かいつつあるようだが予断を許さない。事態の早期収拾を願うとともに、人種差別の問題にあらためて目を向けたい。

 真相は依然として分かっていない。事件は9日、コンビニエンスストアで強盗事件が起きたとの通報を受け出動した警察官が、現場近くで青年と口論となって起きた。数発発砲され、青年は即死状態だったという。

 警察側は、青年が警察の武器を奪おうとした、と主張する。一方、青年は丸腰で、手を上げて無抵抗だったとする目撃者もいる。この証言の食い違いが今後の捜査の大きな焦点となるに違いない。

 発砲した警察官を起訴するかどうか決める大陪審もこのほど始まった。警察側が過剰防衛でなかったのか、徹底的に調べてもらいたい。

 デモの背景には「白人優位」とされる社会への根強い不満があるに違いない。ファーガソンでは人口2万1千人の6割以上が黒人。だが警察官の95%は白人が占める。職務質問や逮捕は黒人に集中しているともいう。事件を機に、捜査機関への不信や日ごろの不満が一気に噴き出した形であろう。

 確かに事件後の警察の対応には首をかしげざるを得ない点もある。抗議デモに対しては催涙弾で応じ、ライフル銃で威嚇、装甲車も出動させた。暴徒化を防ぐためとはいえ、一般市民への対応としては行き過ぎではなかろうか。こうした強圧的な姿勢が、抗議活動をさらに先鋭化させた面は否めないだろう。

 米国で人種差別を禁じた公民権法の制定から50年。しかし今も社会の根底には、差別が根強く残る。

 1992年には、黒人男性に暴行した警察官が無罪となったのを機に「ロス暴動」があった。2009年にも警官が黒人を射殺して抗議運動が広がった。差別根絶への取り組みが遅々として進まない現状に、もどかしさを覚える。

 併せて、貧富の格差の問題も、人種間の溝が広がりつつある背景かもしれない。米国経済は、安価なシェールガス開発などによって、原料コストが引き下げられ企業の競争力が復活しつつあるとされる。

 一方、低賃金の労働に押しやられたままの黒人やヒスパニックは少なくない。格差解消は一向に進まず、社会の不満が蓄積されてきたのだろう。

 オバマ大統領は「一つのアメリカ」を掲げる。しかし、今回の事件から見ても、その実現は程遠いのが現実である。初の黒人大統領であるオバマ氏は、低所得者への福祉や教育、雇用促進をさらに促す必要があるのではないだろうか。

 日本でも格差の問題が深刻化しつつある。親が貧しいため教育機会に恵まれず、社会に出ても貧しさから抜け出せない「貧困の連鎖」も広がる。このままでは社会が不安定化する恐れもあろう。

 閉塞(へいそく)感をなくし、社会の公平性をいかに保つか―。決して米国だけの問題ではない。

(2014年8月26日朝刊掲載)

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