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若き才能 広島できらめく アニメーションフェス閉幕

 25日に閉幕した第15回広島国際アニメーションフェスティバル(広島市など主催)は20、30代の新しい才能が躍進した祭典だった。グランプリは、親の介護をテーマに2次元と3次元の表現方法を組み合わせた、デイジー・ジェイコブスさん(英国)の「ザ ビガー ピクチャー」を選んだ。ヒロシマ賞のレーカ・ブチさん(ハンガリー)の「シンフォニー №42」とともに、若手が学生時代に手掛けた作品が上位を占めた。来場した受賞作家の思いや横顔を紹介する。(林淳一郎、余村泰樹)

ヒロシマ賞 レーカ・ブチさん

紡いだ場面 自由に感じて

 「ユーモアって、面白さだけじゃない。裏には悲しみや深刻さもある。作品に織り込んだ深みの部分をくみ取ってもらえたんだと思う」。祭典のテーマ「愛と平和」を最も表現した作品に贈られるヒロシマ賞に輝いたレーカ・ブチさん(26)は、喜びをかみしめた。

 ドイツ出身で、幼い頃からコミックを描くのが好きだった。現在はハンガリーの首都ブダペストを拠点にフリーで活動している。

 受賞作「シンフォニー №42」は、昨年までアニメーションを学んだモホリ・ナジ大(ブダペスト)で卒業制作した。柵の向こうで「ヘルプ」の文字をキャンバスにつづるゾウ、空飛ぶ円盤に吸い上げられていく海の生き物…。どこかシュールで不思議な物語がオムニバス調で展開する。

 タイトル通り、交響曲をほうふつさせる映像と音の世界。「42」はマジックナンバー(魔法の数字)という。「瞬時に起こるさまざまなシーンをただ並べるのではなくて、作曲家のように紡ぎ上げた。どう解釈するかは、見る人それぞれが自由に考えてほしい」

 初めて訪れた広島。今大会の国際審査委員を務めた山村浩二さんたちの作品も会場で上映され、刺激を受けた。「才能あふれる人たちと触れ合い、知り合えたのは糧になる。インスピレーション(ひらめき)も湧いてきた」とほほ笑む。

 次作のテーマは「愛」を考えている。「大きなチャレンジになりそう。いま集めている小さな話題や経験を絵で表現して、私らしくまとめていければ。また広島に帰ってきたい」と力を込めた。

表情豊か 会話に焦点

 デビュー賞を受賞したスロベニアのシュペラ・カデシュさん(36)の「ボールス」は、貧しい地区を舞台に、作家を目指す男性が、隣に住む年上の娼婦に引かれていく物語だ。

 「会話が物語の焦点。生きているような感じを出したかった」。シリコーン製の人形と光の巧みな操作で作り出した豊かな表情が印象に残る。審査員からは「孤独な人々があふれる世界の繊細かつ奇妙な友情の物語」と評価された。

 4年がかりの制作過程で出産も経験した。今祭典の受賞者に若い女性が多く、「制作の励みになる」と目を輝かせた。

父子の姿 実体験基に

 観客賞はフィンランドのカリ・ピエスカさん(34)の「ノー タイム フォア トウズ」。無邪気な子どもに振り回される父親を、素朴なスケッチでユーモアたっぷりに描いた。

 3児の父である自身の体験を基に制作した。子どもたちにいら立つ様子も包み隠さず「心の中をそのまま表現するのが少し怖くもあった」と振り返る。

 そんな心配をよそに会場は共感の笑いで包まれた。「アジアでも親子の関係や考えは一緒」と語る。受賞に「子どもも喜んでくれるんじゃないかな」と優しい父親の表情を見せた。

 その他の受賞は次の皆さん。(敬称略)

 【木下蓮三賞】エドムンズ・ヤンソンス「クワイア ツアー」【国際審査委員特別賞】ロスト「ロンリー ボーンズ」▽ダヒ・チョン「マン オン ザ チェア」▽トメク・ドゥツキ「バス」▽ドゥミトリィ・ヴィソツキー「ピック ピック ピック」▽アレックス・グリッグ「ファントム リム」▽スキルマンタ・ヤカイテ、ソルヴェイガ・マスティカイテ「ノン-ユークリディアン ジオメトリー」【優秀賞】イエルジィ・クチャ「フーグ フォア セロ、トランペット アンド ランドスケープ」▽ニコラ・ドゥヴォー「5メートル80」▽ルノー・アレー「ザ クロックメイカーズ」▽アンナ・ブダノヴァ「ジ ウーンド」▽ニコライ・トゥロシンスキィ「アスティグマティズモ」▽ヴラディミール・マヴォーニア―コウカ「ザ ビースト」

(2014年8月27日朝刊掲載)

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