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社説・コラム

『潮流』 大人たちの宿題

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 あの日感じた高揚感は一体何だったのだろう。ちょうど6年前の今日、米国の民主党大会の取材で、大統領候補に選ばれたオバマ氏の指名受諾演説の現場に立ち会った。

 「チェンジ(変革)」を掲げ、アメリカンドリームの再生を誓ったオバマ氏。会場を埋めた8万の人と一緒に、「米国が、世界が変わるかもしれない」期待感は覚えた。

 黒人として初めて大統領になった。イラクやアフガニスタンから撤退し、医療保険改革も曲がりなりにも実現させた。確かに、米国は変わったといえるのかもしれない。

 では、世界はどうだろう。被爆地広島として最も気になるのは、核兵器のない世界を目指すとの訴えだ。ノーベル平和賞にも輝いた。だが、期待の大きさは半面、ともすれば失望に変わりやすい。

 中東やウクライナの混乱ぶりを見ると、裏切られた思いさえする。もちろん、一人だけの責任ではないが。

 こうして挫折も多かった任期は残り2年余りになった。期待された核兵器廃絶への道筋を付けられるのか。野党共和党や、ロシア、中国などハードルは国内外ともに高い。

 来年は被爆70年。春には、5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる。核兵器がいかに非人道的か、理解は国際的に広がりつつある。これを追い風に、大統領も一歩踏み出すチャンスはあるはずだ。何とか、核兵器を禁止する法的な枠組みをつくるきっかけにしたい。

 日本の姿勢も問われよう。とりわけ外相である。被爆地広島選出の岸田文雄氏が続投するのなら、それにふさわしい言動が求められる。

 「宿題」をきちんとこなせるか。むろん、このお二方だけに課されたのではあるまい。ヒロシマも来年に向け、さらに発信力を強めていきたい。子どもたちの夏休みは終わるが、大人たちの追い込みはこれからだ。

(2014年8月28日朝刊掲載)

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