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平和賞サミット詳報

ノーベル平和賞受賞者世界サミットは12日、三つのテーマのセッションで議論した。主な発言と質疑は次の通り

【第1セッション・ヒロシマの遺産】

  ■記者 二井理江 

原爆の悲惨さを伝え続ける重要性を訴える声が相次いだ。ダライ・ラマ14世は、開会式での高橋昭博さんの被爆体験の証言を受け「ドキュメンタリーを制作し、核兵器がいかなるものかを世界中で学んでほしい」と語った。

 デクラーク元南アフリカ大統領は、核兵器を解体、放棄した自国の経緯に触れ「やろうと思えばできる」と力説し、核兵器を持とうとする原因を探る必要性に言及した。北アイルランドの平和運動家メイリード・マグアイアさんは「敵対する相手でも同じテーブルに着くことで解決の糸口が見えてくる」と対話の大切さを指摘した。

 国際赤十字・赤新月社連盟(スイス・ジュネーブ)の近衛忠煇会長は、広島に原爆が投下された1カ月後に、赤十字国際委員会のマルセル・ジュノー博士が外国人医師として広島入りした様子を紹介。「赤十字のボランティアやスタッフは核兵器や核実験が人道にもたらす影響を目撃してきた。私たちは核問題に正面から取り組み、人道主義を貫くよう各国に求めていくべきだ」と話した。

 会場からの「ヒロシマの遺産を世界で共有するにはどうしたらいいか」の質問に対し、国連のトーマス・ステルザー事務次長補は「伝え続けてほしい。鮮烈さが薄れることはないのだから」と発言。ムハンマド・エルバラダイ前国際原子力機関事務局長も「貧困の原因と核兵器問題はリンクしている。事実を伝えないといけない」と述べた。

 デクラーク氏は「かつて政治家だった者として言わせてもらう。政治家は若者の声に耳を傾ける。力強く説得してほしい」と呼び掛け、会場を沸かせた。

【第2セッション・暴力のない世界 安全保障に核兵器は必要か?】

  ■記者 東海右佐衛門直柄

 核兵器開発に巨費が投じられる一方、途上国の人々の安全や教育が脅かされている現状を多くが憂慮した。生命や生活に対する「人間の安全保障」の重要性を説き、核兵器禁止条約の制定を求めた。

 イランの人権活動家シリン・エバディ氏は、国によっては軍事開発に力を注ぐあまり、国民の教育や貧困対策がおろそかになっていると指摘。「国際社会は軍事費偏重の考え方を転換すべきだ」と述べた。

 元国連事務次長のジャヤンタ・ダナパラ氏も「核兵器の安全保障は必要か、との問いへの答えはノーだ」と強調。核兵器の技術がテロリストに流出する懸念も強まっており「核兵器があるからこそ国際的な危険が高まる」と語気を強めた。

 核兵器禁止条約の重要性を訴えたのは、核戦争防止国際医師会議のバァップ・タイパレ共同会長。「核抑止に依存する構造を変える必要がある」と力を込めた。国際原子力機関(IAEA)前事務局長のムハンマド・エルバラダイ氏は「核兵器をまず抜本的に削減することに国際社会は注力すべきだ」と訴えた。

 一方、国連のセルゲイ・オルジョニキーゼ事務次長は、核兵器廃絶への道のりは容易ではないとした上で、「保有国が廃絶を政治的に合意した後、実現への道のりを段階的に検証するシステムが必要だ」と説いた。

 アクロニム研究のレベッカ・ジョンソン所長は「核保有国に廃絶運動を任せるのではなく、市民社会こそリーダーシップを取るべきだ」と力説。「核のない世界はあなた方の将来なのです」と語り掛けた。

【第3セッション・核兵器の脅威 地域紛争、テロ、誤使用】

  ■記者 馬上稔子

  参加者は米中枢同時テロ以降、核テロの脅威は高まっていることを警告した。

 米国の地雷禁止運動家ジョディ・ウィリアムズ氏は、敵対する国にとっては米国こそが「テロリスト」であると指摘。米国が核兵器を持ち続ける限り、相手も持ちたがるのは論理的だと主張し「大統領に世界を変えてと期待するのではなく、市民の行動で動かすべきだ」と訴えた。

 ダライ・ラマ14世は、米中枢同時テロが発生した直後、ジョージ・ブッシュ前米大統領に手紙を送り、非暴力による対応を促した経験を紹介した。しかし、その後のアフガニスタン戦争などで「米国は暴力的な策を取り、新たな脅威を生んだ」と批判した。

 フレデリク・デクラーク元南アフリカ大統領は、アフリカ地域が非核地帯宣言をした経験に触れ「政府の意思決定がなければ核兵器廃絶は実現できない。市民の行動を通しプレッシャーをかけよう」と呼び掛けた。

 米国の非政府組織(NGO)のグローバル・セキュリティー・インスティテュートのジョナサン・グラノフ所長は、核テロが一都市ででも起これば、世界中の通商や株式市場がストップし大混乱に陥る危険性を力説。「私たちは核テロにもっと焦点を向けなければならない」と促した。

 会場からは、核兵器がテロリストに渡る危険性についての質問があり、デクラーク氏は「現実的に起こり得る」と懸念を表明した。ウィリアムズ氏は「廃絶が実現すれば、テロリストの脅威におびえる必要はない」と強調した。

(2010年11月13日朝刊掲載)

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