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平和を考える夏 とちぎから/ヒロシマ講座 69年目の現地ルポ/下/伝承者養成/被爆題材に向き合う「今」/風化防止へ誰もが 細かな質問を重ね、69年前の8月6日を追体験していく。

 「被爆した直後に一度、街中に行ったのですね」

 「どのあたりまで行きましたか」

 1日夕方、広島市中区の広島国際会議場。被爆者に尋ねている人々は、大学教授やマンドリン奏者などさまざまな職業だ。

 広島市も被爆者の高齢化に危機感を募らせている。2012年度から、被爆者に代わって体験を語り継ぐ「伝承者」の養成を始めた。

 現在の受講生は県内外の162人。被爆の実態や話法を学び、それぞれ26人の証言者に付いて伝承を受ける。認定まで3年かかる。

 マンドリン奏者の佐古季暢子(さこきょうこ)さん(29)は広島育ち。音楽活動で伝えてきた広島の原点と、より深く向き合おうと応募した。

 「被爆者の体験と願いは重い。どう受け止め、次世代に伝えればいいのか、まだ答えは出ていません」

 囲まれていた証言者は、広島大名誉教授の北川建次(きたがわけんじ)さん(79)だった。小山市で7月下旬に開かれた原爆展に証言者として訪れた際に取材していた。

 「小山では来場者から『本当にあったことですか』なんて聞かれてね」と栃木での出来事を苦笑した。

 被爆者本人でなくても、体験と思いを伝えることはできるのか-。

 「被爆者のコピーではだめ。体験に加えて自らの思いを自らの言葉で伝えることが必要」。証言者の新井俊一郎(あらいしゅんいちろう)さん(82)は強調する。「風化するのは人ごとだから。自分に関係することだと考えてもらわないと」。意識の壁を乗り越えようと、模索が続く。

 被爆体験の語り継ぎは本県でも課題だ。県内で被爆者健康手帳を持っている被爆者は3月末時点で212人。語り部として活動しているのは数人しかいない。  6日。平和記念式典後に雨が上がった。原爆ドーム前の元安川周辺では、灯籠流しの準備が進む。

 伝承者を目指す広島市南区、会社員保田麻友(やすだまゆ)さん(29)の姿もあった。会場に足を運べない高齢者を訪ね、思いを書いてもらった灯籠を代わりに流している。

 真っすぐな視線で問われた。「外からは、広島は原爆、被爆とばかり騒いでいるように見えるんじゃないですか?」

 原爆は理解してほしい。だが、いつも忘れないでと言っているわけではない。「広島は一つの題材。それぞれの場所で今、国内外で起きている平和の問題を考えてほしい」と訴える。

 伝承者の役割は「聞いた人が自ら考え、動くきっかけづくり」。

 どこに住んでいても、誰もが、伝承者になりうる。(荒井克己)

(下野新聞8月14日朝刊3面掲載)  

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