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社説・コラム

『潮流』 「トイレ」の当てもなく

■論説委員・田原直樹

 安全第一に徹し、地元に決して迷惑を掛けない―。

 青森県六ケ所村に使用済み核燃料再処理工場を建設している日本原燃の社長は語った。着工から21年。今年こそ完成をと意気込む。

 原発や核燃サイクル施設が集まる下北半島。地元にとって重要な産業であり、自治体も安全を確保した上での早期稼働に期待する。

 政府も原発の再稼働に前のめりだが「トイレのないマンション」であることに変わりはない。再処理工場が完成し、核燃サイクルが整ったとしても、放射性廃棄物の最終処分場は決まっていない。となると、いったん立ち止まる必要があるだろうに。

 下北から戻った広島で、大阪大准教授今岡良子さんの講演を聞いて驚いた。

 「モンゴルに処分場を造る計画は、まだくすぶっているんです」

 米国、モンゴルと検討した計画は3年前、明るみに。ウラン燃料の供給と使用後の処理を担う「揺りかごから墓場まで燃料サービス」構想の柱である。日米は使用済み核燃料の処分地が確保できる。原発建設と「ごみ」処分のセットで、新興国へ原発も輸出しやすくなり、都合がいいわけだ。

 モンゴル国内で問題になって、立ち消えになったと思われた。だが遊牧民族社会が専門で、同国の事情に詳しい今岡さんは警戒を緩めない。国予算も放射線測定施設の建設費が付いた。

 ウラン採掘の鉱山近くでも遊牧民らに危険性は十分に知らされていないようだ。健康不安などを訴える住民もいるが抗議活動は抑え込まれているという。

 下北や東北、北陸、南九州など、産業に乏しい地で進められてきた日本の原発政策。途上国モンゴルに処分場をという発想は、その延長線上に出てきたのか。

 行き詰まったサイクルは国内でじっくり再考すべきだろう。他国の人々に迷惑を掛けていいはずはない。

(2014年8月30日朝刊掲載)

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